情報通信研究機構(NICT)は、「nano tech 2019」で、ウェアラブル脳波計を用いて英語のリスニング能力を向上させることができる学習法などを紹介した。
情報通信研究機構(NICT)は、「nano tech 2019」(2019年1月30日〜2月1日、東京ビッグサイト)で、ウェアラブル脳波計を用いて英語のリスニング能力を向上させることができる学習法などを紹介した。
NICTは、脳波を比較的簡単に測定できるウェアラブル脳波計を開発。技術移転を受けた民間企業が、小型の脳波計やヘッドギアなどを商品化してきた。従来の脳波計測装置は、大型であり、頭部に導電性ペーストを付ける必要があるなど、被測定者への負担が大きかった。測定する技師にも専門的な知識が必要であった。
開発したウェアラブル脳波計は、こうしたハードウェアの課題を解決した。具体的には頭皮との密着性がそれほど良くなくても脳波を計測できる脳波電極を開発。この脳波電極を搭載したヘッドギアは、誰の頭にもフィットするよう設計した。小型で軽量化した脳波計と組み合わせることで、日常生活の中で容易に脳波計測を可能とした。
ブースでは、開発したウェアラブル脳波計を一般的な医療分野だけでなく、教育やマーケティングに応用できる事例を示した。その1つが、「脳波を用いたニューロフィードバックトレーニングによる英語リスニング能力の強化」を可能にする事例である。
多くの日本人にとっては、英語の「light」と「right」の音を聞き分けることが難しいとされてきた。例えば、「light」の中に「right」が交じる音列を聞いても、全て「light」と認識するという。
ところが、脳波を計測すると、「light」と「right」の音を聞いた時、脳は無意識に音の違いを感じているため、脳活動パターンは異なることが分かっている。ミスマッチ陰性電位(MMN)と呼ばれるこの脳活動パターンは、音の違いを判別するとMMNが大きくなるという。
そこで、NICTの研究グループは、音の違いを聞き取れるようにするため、MMNを大きくするトレーニング方法を考案。MMNの大きさを緑色の円の大きさに対応させて可視化するシステムを開発した。「light」の中に「right」が交じる音列を聞く被測定者の脳波を計測し、「right」を認識した時に緑色の円を大きくすることに集中していると、いずれはそれをコントロールできるようになるという。
実際に、ニューロフィードバックトレーニングを実施した。参加者は1日1時間程度で5日間のトレーニングを行った。その結果、認知テストの正答率は最初の約60%から最終的には約90%へと向上した。逆にニューロフィードバックトレーニングを行わなかった参加者は、MMNを大きくすることができず、認知テストの正答率もほとんど向上しないことが分かった。
これらの検証結果から、ニューロフィードバックが英単語の聞き分け能力を向上させることに効果的であることが分かった。この他、効率よい人材育成の方法に関する検証や、消費者の心理分析、自動車の運転者やパイロットの状態推定など、脳活動の定量化に活用できるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.