米国と中国の通信インフラを巡る覇権争いが過熱している。そうした中で、日本企業は、米国の方針に追随するしかないのだろうか。
私事で恐縮だが先日、久々に商用で中国に出張した。慌ただしいスケジュールではあったが、現地企業からも自治体からも、進化や発展のすさまじいエネルギーを感じ取ることができ、有意義な3泊4日だった。しかし、そのような中で悩ましかったのが、現地でのモバイル通信の制約である。通常の手順でネット接続しようとしてもつながらない、つながることもあるがダメなときもあるなど、筆者に限らず、中国出張の際にネット接続で苦労させられた方は多いだろう。中国が共産国である以上、こういう目に遭うのかなと痛感させられたわけだが、折しも米国が同盟諸国に「Huawei排除」を呼びかけていることを、筆者としては改めて考えさせられることになった。
少々細かい話になるが、今回の出張で日本から一緒に中国入りしたメンバーのほとんどが、現地で「LINEが使えない」という事態に陥った。筆者はたまたま日本で購入したSIMカード(China Unicomのプリペイド付き)をスマホに差し込んでいてLINEを使うことができたが、ホテルにチェックイン後、ホテル内のWi-Fiに接続するとLINEが使えなくなった。PCでWeb検索を行うときも、ホテル内のWi-Fi経由でネット接続すると、検索できる範囲が大きく制限され、自由にWeb閲覧できなくなるのだ。そこでWi-Fi経由を諦め、自分のスマホのテザリング機能でネットに接続すると、検索時の制限は解除された。いったいこれは、どういうことなのか。
現地の通信事情に詳しい人物によれば「筆者のSIMカードは日本で購入したもの(日本製)だからアクセス制限がかからないのだろう。中国製のSIMカードなら制限がかかるはずだ」とのこと。ホテルのWi-Fi経由でアクセス制限がかかるのは当然で、中国政府はGoogleだけでなくYahooにも制約をかけ始めている、という。その人物は、中国内ではVPN(Virtual Private Network)接続を活用することで、中国外のサーバ経由でGoogleやYahooにアクセスする手段を取り、制限を逃れている。だが、そのVPNも中国政府から摘発されると制限がかけられてしまうらしい。そこでユーザーとしては新しいVPNを探し求めるわけだが、現状はこの「イタチごっこ」の繰り返しで、アクセス制限から逃れたければ、中国政府の執拗な追跡を常に意識する必要がある、というのだ。
「そんなことはとっくに知っている」という読者もおられると思う。だが、通信網が世界中に普及している現在、中国政府のこのような姿勢を実際に見せつけられると、われわれとしては色々なことを想定する必要があるように思えてくるのである。国内で閲覧可能な情報を制限しようとする中国は、対峙する諸国に対しても情報戦で優位に立つためにさまざまな戦略を考えているとしても不思議はない。
特に気になるのは、中国政府が国内の大手企業に取締役会の上に立つ共産党組織を作ることを「国家情報法」で強要していることである。これは中国政府の命令に企業を従わせることが目的で、企業は政府の命令があれば、所持している情報のすべてを政府に提供するように規定されている。この情報には海外顧客の機密情報も含まれる、と解釈すれば、中国企業の顧客になると自社の機密情報が中国政府に閲覧され得る、という懸念が浮上する。
冒頭で「米国が同盟諸国にHuawei排除を呼びかけている」と述べたが、同社は携帯電話通信インフラにおける世界市場でトップシェアを誇っている(2018年は2位に転落した。出所はIHS Markitのデータ)。これから普及する第5世代移動通信(5G)対応の基地局でも競合他社より安価な製品を提供できるため、同社の基地局を積極的に採用しようとする通信キャリア企業は少なくないようだ。しかし同社が中国企業である以上、Huawei製システムを導入することで、通信キャリアが所持する情報、さらにはその通信ネットワークを利用するユーザーの情報などがHuaweiに筒抜けになるのではないか、そしてそれらは中国政府にも閲覧され得るのではないか、という懸念をぬぐい去ることはできない。
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