3つ目の課題として、「『グローバルなベンチャーを目指した新興企業に資金調達の道を開く』という東証の高い理念に基づいて設立された故に上場しやすい」というマザーズの特性を適正に活用しようとしないベンチャーキャピタルが(VC)多いことが挙げられる。これは、前回の記事では取り上げなかったが、VC側の問題でもある。
東証一部は、世界的に見ても優れた市場といえる。だが新興市場であるが故の宿命なのか、東証マザーズでは、1999年11月に開設されて以来、内向きな小規模取引が続いているだけなのである。前出の瀧口氏に言わせれば「東証の理念から離れた、内向きな“国内マザーズゲーム”を見るケースがある」となる。
ベンチャー企業が「海外で頑張るぞ」と意思表明しても、多くのVCが「海外進出なんてとんでもない!」と否定する。せっかくマザーズで上場できるのに、成長に時間を要する海外に進出されると困ってしまうのだ。”国内マザーズゲーム”とは、まさに言い得て妙である。
結局のところ、まだ日本の資本市場の一部が未熟なのだろう。瀧口氏によれば、日本の資本市場は同氏が野村證券を退職した20年前に比べ、今も変わっていない部分が多いという。
さて、冒頭にお伝えしたように、ベンチャー企業のエグジットには他社による買収もある。次回以降は、大企業による買収を含め、日本のイノベーションエコシステムという観点から議論を進めたい。
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
石井正純(いしい まさずみ)
日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。
AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。
2019年3月まで、静岡大学工学部大学院および早稲田大学大学院ビジネススクールの客員教授を務め、現在は、中部大学客員教授および東洋大学アカデミックアドバイザーに就任している。
2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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