理化学研究所(理研)や産業技術総合研究所(産総研)らの共同研究グループは2019年1月、シリコン量子ビットを最高温度10K(約−263℃)で動作させることに成功した。
理化学研究所(理研)や産業技術総合研究所(産総研)らの共同研究グループは2019年1月、シリコン量子ビットを最高温度10K(約−263℃)で動作させることに成功したと発表した。量子ビットが小型の冷却装置を用いて動作可能となったことからセンサーなどへの応用が期待される。
今回の研究成果は、理研開拓研究本部石橋極微デバイス工学研究室の大野圭司専任研究員(創発物性科学研究センター量子効果デバイス研究チーム専任研究員)、産総研ナノエレクトロニクス研究部門ナノCMOS集積グループの森貴洋主任研究員および、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点量子デバイス工学グループの森山悟士主任研究員らによるものである。
シリコン中の電子スピンを用いるシリコン量子ビットの活用は、シリコン集積回路との接続性に優れていることから注目を集めている。ところが従来のシリコン量子ビットは、動作温度として0.1K(約−273℃)以下の極低温環境を実現する必要があり、この動作環境を作るのに1台約1億円の冷却装置と10m2程度の装置設置スペースを用意しなければならなかった。
そこで共同研究グループは、これまでより100倍以上も高い温度で動作するシリコン量子ビットの開発に取り組んだ。このためにはシリコン中に、より強く局在した電子が必要になるという。
これを実現するため、シリコンの「深い不純物」である「アルミ−窒素不純物ペア」を利用した。ところが、量子ビットの状態を電気信号として読み出すためには、深い不純物の電子をトランジスタの電極に取り出す必要がある。しかも、従来のトランジスタ構造だと、トンネル障壁が厚くなりすぎて、電子を取り出すのは容易ではない。
そこで今回は、トンネル電界効果トランジスタ構造にしてトンネル障壁を薄くし、深い不純物の電子を電極に取り出せるよう工夫した。
電子のスピン状態をトランジスタの電気特性として読み出す方法は、「スピン閉鎖現象」を利用した。具体的には、スピンを読み出したいターゲット不純物の電子を電極へ取り出す時、これとは別に用意した遮断機不純物を経由しないと取り出せないような仕組みとした。
この結果、2つの不純物のスピン状態が同じだと、電子は互いに近寄ることができず、電極に取り出すことができない。これに対しスピン状態が異なる場合、電子が互いに近寄り同じ位置となるため、遮断機不純物を経由して電極に取り出し、ターゲット不純物の電子スピン状態を電気信号として読み出すことができるという。この方法に加え、磁気共鳴技術で電子スピン状態を操作することにより、量子ビットの動作を確認した。
今回開発したシリコン量子ビットの動作温度は最大10Kであった。これは遮断機不純物が浅い不純物であったためと分析している。共同研究グループは、遮断機不純物にも深い不純物を用いれば、さらなる高温動作が可能になるとみている。
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