シェルが造形できたら、組み立ての工程に移る。これは、CADでシミュレーションしたスピーカーなどの部品を実際に組み立てる工程だが、「米粒程度」のスピーカーを、シェルの内側に触れないように接着する作業が必要となる。さらに、固定したスピーカーの幅約0.2mmのリードを、直径約0.5mmのピンに手作業でハンダ付けする作業も必要であり、技術者が約20倍の顕微鏡を除きながら、ピンセットで1つ1つ作業を進めてく。作業にあたっていた技術者は、「CADのシミュレーションではかなり細かい設定ができるが、それを現実で手作業で実現するのは難しい。これは長年のノウハウ、技術の集大成だ」と話していた。慎重を期す作業であり、1件につき約1時間半と、全行程で最も時間がかかるという。
この後、シェルと基板を接着したうえで、顧客の耳穴の型から作成した逆型(耳の内側の型)にシェルをはめ込み、不必要に接触している点がないかなどを確認、不要な箇所を見つけたらそこを削りながら仕上げていくが、技術者は、「このあたりの作業は、手順書にも『滑らかに仕上げる』としか書いていない。実際に作業をしていても、なかなか口で表現できるようなものではない。長年の経験とカンが頼りになる作業だ」と話していた。
仕上げ終わった後は、「つるつるになるまで」磨き上げ、コーティング剤を塗って完成となり、顧客のもとに届けられる。この後、もし顧客から「耳に合わない」と言われれば、その情報をもとに再度、調整を行っていくという。
こうして、職人のノウハウと技術の結晶としてオーダーメイド品が送り出されている。ただ、後継者育成のための取り組みも進めるが、「最近は、ハンダ付けの技術がある若い人が少ない」などと、懸念も示した。
同社としては、「IT化も常に考えている」というが、「現段階では蓄積してきたデータを使って作れるかというかというとそんな簡単な話ではない。例えば現在、相談員から、『顧客の耳垢がこうなっていて――』と情報があれば、それに合わせた形を職人のカンで作っている。それをどう機械化すればいいか。なかなかIT化に向けては障害が高いのが実情だ」と説明。そのうえで、「今後、一部はIT化して、確認を人間がするというような工程としては進めていきたい」としている。
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