東京工業大学物質理工学院応用化学系の脇慶子准教授らは2019年10月、ペロブスカイト太陽電池を作製した時に、初期特性が安定しなくても常温常圧のまま放置するだけで、発電効率が向上する技術を開発した。
東京工業大学物質理工学院応用化学系の脇慶子准教授らは2019年10月、ペロブスカイト太陽電池を作製した時に、初期特性が安定しなくても常温常圧のまま放置するだけで、発電効率が向上する技術を開発した。
ペロブスカイト太陽電池は、低温プロセスで作製できる高効率の太陽電池として期待されている。ところが、同じプロセスで製造しても初期の発電特性が一定しないなど、実用化に向けては安定性や再現性に課題があった。
脇氏らは今回、2段階湿式法を用いホール輸送層(HTM)フリーのペロブスカイト太陽電池を作製した。ペロブスカイト材料はハロゲン化鉛ペロブスカイト(CH3NH3PbI3)、電子はTiO2電極、ホールは酸処理でカルボキシル基(−COOH)やフェノール基(−OH)などの官能基を修飾した多層カーボンナノチューブ(CNT)を紙状電極(BP:buckypaper)として作製し、HTM/Au電極の代わりに用いた。
評価用に作製した複数のペロブスカイト太陽電池は、初期特性がばらついて安定性も低い。これらの太陽電池を乾燥剤が入った試料ケースに保管。常温常圧で相対湿度(RH)が20〜50%の環境に長期間放置して、発電特性の経時変化を測定した。その結果、発電効率の初期値が3%であったペロブスカイト太陽電池を77日間放置したところ、発電効率が11%に向上したという。
脇氏らは、CNTに導入した「−COOH」や「−OH」などの酸素官能基が、時間経過とともにヨウ化鉛(PbI2)膜やペロブスカイト(MAPbI3)膜と強く相互作用し、発電効率や再現性、安定性の向上につながることを発見した。
実験結果から、MAPbI3/CNT界面抵抗に加え、MAPbI3/TiO2界面の電子移動抵抗も大きく下がることが分かった。製造プロセスの精度などで初期特性にばらつきがあっても、酸素官能基が存在していればペロブスカイト結晶が常温で自己再構成し、より強固な接合界面を形成。これによって、発電特性や安定性に優れた太陽電池を作製することができるという。
脇氏らは今後、ペロブスカイト層の組成や厚み、電極界面などを最適化し、ペロブスカイト太陽電池の早期実用化を目指す考えである。
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