東北大学は、鉄白金(FePt)合金のスピン異常ホール効果によって生成されたスピン流を用いて、磁石の極性をスイッチングさせることに成功した。
東北大学金属材料研究所の関剛斎准教授と高梨弘毅教授および、同大学材料科学高等研究所の飯浜賢志助教らによる研究グループは2019年10月、鉄白金(FePt)合金のスピン異常ホール効果によって生成されたスピン流を用いて、磁石の極性をスイッチングさせることに成功したと発表した。これまでスピントロニクス素子で用いられてきた技術とは異なり、新たな方法で磁石に情報を書き込むことが可能なことを示した。
磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)などのスピントロニクス素子は、磁化方向で情報を記憶し、スピン流を利用して情報の書き込みや読み出しを行う。従来の半導体素子に比べ「不揮発性で消費電力が小さい」などの特長があり、次世代デバイスとして期待されている。一方で、情報を書き込む時の省エネ化などが課題となっていた。
研究グループは今回、大きな異常ホール効果を示すことが知られているFePt合金に着目した。実験ではFePt合金の薄膜上に銅(Cu)と鉄ニッケル(FeNi)合金磁石を積層した巨大磁気抵抗(GMR)膜を作製。FePt合金層のスピン異常ホール効果によって生成されるスピン流が、FeNi合金層の磁化に与える影響を調べた。
FeNi合金層における強磁性共鳴スペクトルの線幅が変化した状況から見積もったところ、スピン異常ホール効果の変換効率(スピン異常ホール角)は25%に達することが分かった。この数値は、非磁性金属のスピンホール効果を利用した場合に匹敵するという。
続いて、FePt合金層のスピン異常ホール効果を利用して、FeNi合金層の磁化をスイッチングできるかどうかを検証した。素子に電流を印加すると、素子抵抗が高い状態と低い状態を移り変わるヒステリシスが現れた。
この抵抗変化は、FePt合金層のスピン異常ホール効果によりFeNi合金層の磁化がスイッチングし、FePt合金層とFeNi合金層の磁化の相対角度が「平行」および「反平行」に変化したことに起因するものだという。これらの結果から、スピン異常ホール効果を用いて磁化をスイッチングできることを確認した。
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