電通アイソバーは、新しいコマース体験を提供する一環として、VR(仮想現実)を活用するプラットフォームを開発している。
デジタルマーケティングの支援などを手掛ける電通アイソバーは、VR(仮想現実)技術を活用したコマース体験(ショッピング体験)に向けたプロトタイプを開発している。
同社がプロトタイプとして開発したのが、UNDER ARMOUR(アンダーアーマー)の新作シューズ「CURRY5」をVR空間に展示するというもの。ユーザーは、スタンドアロンのVRヘッドセット「Oculus Go」を使って、シューズのディテールやカラーバリエーションを確認できる。
このプロトタイプは、電通アイソバーが、リテール業界向けのイベント「Salesforce Retail Summit 2018」(2018年10月12日に都内で開催)に出展するために開発したもの。あくまでプロトタイプなので、実際のサービスとして提供する予定はないが、クライアントなどに実機を見せることはあるという。製品化のニーズがあれば、顧客の要求に合わせてさらに作り込むことは可能だとする。
VR空間に展示されたシューズは、Oculus Goのコントローラーを使って360度回転させてディテールを見たり、カラーバリエーションがある場合は、別のカラーに変えたりすることができる。それだけでなく、CURRY5のプロモーションビデオや、購入者のレビュー/口コミも同じVR空間内に表示されているので、自由に見ることが可能だ。ちなみに、Oculus Goを採用したのは、安価で導入障壁が低いから。しかも軽量なので手軽に使えるという。
「身に着けるものは実際の商品を手に取って確認してから購入したい」という消費者も多いかもしれないが、VRを活用した商品展示は、新作シューズが出る前、つまり店舗に入荷されていない時期や、在庫切れの時などにも利便性が高いのではないだろうか。
電通アイソバー プラットフォームソリューション部シニア クリエーティブ テクノロジストを務める瀬尾智昭氏によれば、VRのメリットとして、「そのブランドが持っている世界観というものを、自由に、容易に作り込めるところ」を挙げる。「リテール業界では、特に通販サイト(コマース)を持っているメーカーが、リアル店舗とコマースをどうつなげるのかを模索している。両者をつなぐチャネルの一つがVRだと考えている」(同氏)
VRで洋服を選ぶなど、ファッション業界ではVRを活用する取り組みが既に数年前から行われてはいるが、瀬尾氏は、VRの活用はまだそこまでコンシューマー向けではないという印象を持っている。「ヘッドセットを装着するのが面倒とか、ヘッドセットの価格が高いといった声もあり、その辺が普及加速の障壁になっているかもしれない。ただ、B2C(Business to Consumer)よりもB2B(Business to Business)のサービスの方が、現時点ではVRが普及する可能性が高いのではないか」と述べる。
瀬尾氏はVRについて、「とても好きな技術」だと語る。「デバイス(ヘッドセット)自体の完成度もかなり上がっているし、これまでの生活を大きくアップデートできる可能性を持つ技術として大いに期待している」(瀬尾氏)
瀬尾氏と同様に、電通アイソバー プラットフォームソリューション部でクリエーティブ テクノロジストを務める松岡湧紀氏も、「VRは“体験”を提供できるメディア。このようなメディアは今まで存在していなかった。その意味でもVRは大きなポテンシャルを持っていると感じる」と語る。「今回のようなリテール以外でも、商品を購入した後に、使用方法をサポートしたり、使用方法のレクチャー動画を見られるようにしたりとアフターサービスを提供するメディアにも適していると思う。幅広い用途に使えるのではないか」(同氏)
市場調査会社のIDC Japanが2019年6月に発表した予測によると、AR(拡張現実)/VRの世界市場規模は、2018年の89億米ドルから2023年には約1606億米ドルまで成長するという。
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