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地図にない場所をAIで補完、災害対策に生かすIntelと赤十字のプロジェクト

Intelは、衛星画像から地理的特徴を認識して最新の高精度地図を作成することが可能な、AIモデルを開発した。同社は、赤十字との密接な協業によって「Missing Mapsプロジェクト」を進めており、発展途上国地域向けに地図を作成して、災害に対する準備活動の推進を目指している。

» 2020年01月22日 11時30分 公開
[Sally Ward-FoxtonEE Times]

緊急時の活動を阻害する、“地図に存在しない場所”

 Intelは、衛星画像から地理的特徴を認識して最新の高精度地図を作成することが可能な、AIモデルを開発した。同社は、赤十字との密接な協業によって「Missing Mapsプロジェクト」を進めており、発展途上国地域向けに地図を作成して、災害に対する準備活動の推進を目指している。発展途上国には、最新の地図が存在しない地域が数多く存在するため、自然災害や伝染病などが発生した場合に、援助団体が効率的に活動することができない恐れがある。

 Missing Mapsプロジェクトの共同創設者であり、米国赤十字Cascades RegionのCEOを務めるDale Kunce氏は、「赤十字が現場で活動する場合、災害対策や緊急時の対応の際に、高精度地図が非常に重要な役割を担う。しかし世界には、全く地図に掲載されていない地域が多く存在し、災害対策や災害発生時の対応が非常に難しいという状況にある。このため、われわれはIntelとの協業により、AI(人工知能)を使って脆弱な地域の地図を作成し、道路や橋梁、建物、都市などを特定するための活動に取り組んでいる」と述べている。

西アフリカで地図を確認するDale Kunce氏 画像:Missing Maps(クリックで拡大)

 Intel AI Labのディープラーニング担当データサイエンティストであるAlexei Bastidas氏は、IntelのPodcastでこの問題について取り上げ、「全ての道路の場所を把握できていない場合、ハリケーンの直撃前後にどこで洪水が発生し、どの道路が破壊され、どの場所が無事だったのかということを全く判断することができない。あらかじめそこに何が存在していたのかを示す高精度な地図がないと、災害時に対応することは不可能だ。また、この他にも考慮すべきは、サイクロンや台風、ハリケーンの他、火山爆発なども含め、災害の多くが気象であるという点だ。このような気象の際には、雲が発生し、衛星センサーが機能しなくなってしまうため、赤十字などの支援団体にとって、活動が非常に困難になる」と述べている。

 Missing Mapsプロジェクトでは現在のところ、ボランティアチームが衛星画像を確認して、道路や町、橋梁などのさまざまなインフラを特定しているという。ボランティアたちは、「Open Street Map」というオープンソースの地図を手作業で更新しているため、かなりの労力と時間がかかっている。

地図にない橋をAIが特定

 Intel AI Labは、MilaとCrowdAIとの協業によって、画像分割モデルを開発し、衛星写真から、ウガンダ国内の地図に載っていない橋梁を特定することに成功したという。分割手法の方が性能面で優れていることから、物体検出手法は採用されていない。

 試験の対象として橋梁が選ばれたのは、非常に重要なインフラの中でも、特に洪水などの自然災害による被害を受けやすいという理由からだ。今回のシステムにより、地図に載っていない橋梁が70カ所発見された。Ugandan National Societyは、このデータを使用して、避難経路や支援物資の配達ルートなどを計画することができる。

AIによって、地図に掲載されていない橋が70カ所、特定されたという 画像:Intel(クリックで拡大)

 Bastidas氏は、「特に難しいのが、衛星画像との連携だ。上下を把握するための明確な基準枠がないという点が、非常に難しい。画像は、常に直上から撮影されるとは限らないため、同じ対象を異なる角度から見ている場合もある。局所地形だけでなく、インフラや建造物の形もそれぞれ異なるため、世界各地から送られてくるラベル付けされたデータに対してモデルのトレーニングを行うことは、極めて困難だ。同じ国内の画像でさえも、夏と冬では地形が異なって見える場合もある。また橋梁などの地物は、寸法や形などもさまざまに異なる」と述べている。

 このためIntelは、トレーニングデータセットをウガンダ国内だけのものに限定した。実際に、ウガンダ北部地域のデータを使用し、同じ橋梁を複数の視点から撮影した画像などを含めることで、モデルが季節的な変化や天底角の変化などを学習できるようにしたという。

 モデルではまず、水路や高速道路などの地物を検索し、高速道路と水路が交差する全ての場所を、橋梁の可能性があるとしてマークした。これらのマークされた場所から30m以内の範囲にあることが分かっている橋梁については、対象外と見なす。この交差地点の周辺に、境界ボックスを追加し、境界ボックス内の地域で撮影された衛星画像を取り出す。そして、モデルが画像を解析し、その中に橋梁が映っているかどうかを判断するという。

 このモデルは、Intelの、「Deep Learning Boost」機能を有効にした「第2世代Xeonスケーラブル・プロセッサ」(開発コード名:Cascade Lake)上で動作し、ディープラーニングネットワークモデルコンパイラ「nGraph」を使用した。

 同氏によると、プロジェクトでは次なるステップとして、マッピング作業を行うボランティアの人々をサポートするためのモデル世代を開発していく予定だという。モデルが橋梁の位置を予測するが、最終的な判断は人間の目に委ねるとしている。

 同氏は、「既存のオープンソースデータを活用する方法を確立することにより、モデルのさらなる堅ろう化と一般化を実現して、地勢的特徴のある地域にも対応し、連携できるようにしていきたい」と述べた。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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