Intelは2016年以降、今日に至るまで、10nmプロセスを立ち上げることができていない。一方で、配線ピッチは同等であるはずの、TSMCとSamsung Electronicsの7nmプロセスは計画通りに進んでいる。ではなぜ、Intelは10nmプロセスの立ち上げに苦戦しているのだろうか。
Intelは2016年以降、今日に至るまで、10nmプロセスを立ち上げることができていない。それが原因となって、メモリ不況を引き起していると考えている(関連記事:「Intel 10nmプロセスの遅れが引き起こしたメモリ不況」(2018年12月7日))。その概略は、以下の通りである。
Intelでは最先端の微細加工プロセスでPC用プロセッサを量産し、1世代遅れたプロセスでサーバ用プロセスを量産してきた。ところが、2016年以降、10nmが立ち上がらないために、サーバ用がPC用の14nmに追い付いてしまった。さらに、Intelは2018年に、Appleの「iPhone」用の通信半導体ビジネスをQualcommから奪った。これも14nmで量産することになった模様である。
以上の結果、14nmの量産工場が過密状態となり、プロセッサを十分供給することができない事態となった。その結果、PC用やサーバ用を当てにして製造されたDRAMとNAND型フラッシュメモリが宙に浮いてしまい、市場に溢れ、価格暴落を引き起こしてしまった――。それが筆者の分析である。
人類が生み出すデジタルデータは指数関数的に増大しており、東京五輪が開催される2020年には44ZB(ゼタバイト=10の21乗)になると予想されている。Amazon、Microsoft、Googleなどのクラウドメーカーは、これらビッグデータをストレージして、あらゆるビジネスに活用したいと思っているはずだ。ところが、Intelの10nmが立ち上がらないために、最先端のサーバが十分供給されず、データセンターの建設が滞ってしまった。
クラウドメーカーが予定通りデータセンターを建設し、半導体業界がメモリ不況を脱するための解決策は、Intelが10nmプロセスを立ち上げ、プロセッサの供給不足を解消することにある。
では、なぜ、Intelは10nmプロセスの立ち上げに苦しんでいるのだろうか? TSMCやSamsung Electronics(以下、Samsung)は、既に7nmの量産を手掛けている。Intelは、TSMCやSamsungより、微細化の技術で後れを取っているのだろうか? 本稿では、Intelが直面している技術的な問題について詳述する。その上で、Intelの10nmプロセスの見通しについて論じる。
TSMCは2018年5月に、7nmプロセスの量産を開始したこと、そしてEUV(極端紫外線)リソグラフィを導入したバージョンの生産を2019年前半にも開始する計画だということを発表した(関連記事:「TSMCがロードマップを発表、EUV導入は19年前半」(2018年5月10日))。
また、Samsungも2018年10月、「EUVリソグラフィを適用した複数の7nmプロセスチップをテープアウトした」と発表している(関連記事:「Samsung、EUV適用7nmチップ開発を加速」(2018年10月29日))。
微細化の数字だけを見ると、Intelは10nmプロセスを立ち上げることができず、TSMCやSamsungは7nmプロセスによる量産に着手しており、Intelが遅れているように見える。
ところが、微細配線のピッチでみると、Intelの10nmとTSMCやSamsungの7nmは、ほぼ同等であるという。従って、EUVの導入については確かにIntelがTSMCやSamsungに後れを取っているかもしれないが、微細化の水準について言えば、Intelが遅れているわけではない。むしろ、2017年から10nmプロセスの立ち上げに挑戦しており、その時点では、世界最先端を走っていたといえる。
そのため、この問題を正確に言うと、「Intelは10nmの立ち上げに苦戦しているが、TSMCやSamsungはIntelの10nmと同じ水準の7nmの立ち上げに困っているという話が聞こえてこない」ということになる。この差は、どこから来るのであろうか?
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