バリューチェーン全体でAR/VR技術を活用していく上で、さまざまなチャンスが広がっているが、特に設計や製造、サービス、トレーニングなどの分野に最も集中している。設計ユースケースは通常、DFX(Design for X)の価値提案をけん引するため、製品を大規模に可視化した設計者は、製造/サービス効率や持続可能性、コスト、人間工学などをベースとした設計を実現できるようになる。設計の反復回数を削減したり、ダウンストリーム効率をより効果的に設計要件に組み込むことなどによって、生産性の向上を実現することが可能だ。
トップレベルの実績がある設計者でも、製品が物理的にどのように構築されているのかを常に把握できるとは限らない。Mehkri氏は、「われわれは、ARを利用することで、設計者と協力し、リモートアシスタンスを提供することができる。カスタマーサポートチェックは今や、地球の反対側まで飛ぶ場合もある。テレコミュニケーションやビデオでもこうした問題への対応は可能だが、コンテンツが欠けてしまう」と述べる。
ARは、プロジェクトに関する注釈を表示したり、タスクを完成させるための方法を視覚的に示すことも可能だ。Mehkri氏は、「ARを利用すれば、視野中に描画したり、シャボン玉を出現させたり、アプリケーション用のマニュアルを表示したりすることもできる。自分自身がその専門知識に近づくことで、その知識を顧客やサプライヤーにも利用してもらえるようになる」と述べている。
VRは顧客向けに、最終製品がどのような外観なのかを明示することができる。描画やパワーポイントなどを使ったプレゼンは2次元的だが、VRであればユーザーに没入感のある環境で示すことができる。
Mehkri氏は、「例えば、顧客から製造ラインの配置について問い合わせがあった場合、VRヘッドセットを使えば、製造ラインの中を歩き回ったり、頭を突き出して機械を見ることもできる」とその利点を述べている。また、顧客が製品設計中に、重要なステップを意図せずスキップしてしまう可能性があることも付け加え、「われわれは顧客にそのプロセスを『実世界』で示し、さらに将来のユースケースのためにキャプチャーできる」と話している。
製造業では、ユースケースはほとんどの場合、タスク処理スピードを向上するための順を追った指示や、作業品質および作業者間連携の改善のために活用されている。しかし、消費者の期待が高まるにつれ、内部的な利益だけでなく、最終的には顧客やサプライチェーンパートナーとの関係改善や、競争力の向上もたらすことになるだろう。産業界はバリューチェーン全体でAR技術を活用することに注目している。
Flexは、AR/VR技術が従業員のトレーニングと製品開発の両方に利用されていくことを予測している。工場内で行うトレーニングは、一般的に周囲が騒々しく集中できない場合がある。VRであれば、仮想環境内のためトレーニングに没頭することができる。PTCによると、ARを用いた労働力の向上を図る産業企業の場合、ユースケースの69%が、エンジニアリング、製造、サービス、トレーニングといった分野における従業員の利益に重点を置いている。
FlexはARおよびVRに必要なヘッドセットの設計と製造におけるブレークスルーを目指している。現在のAR/VR用ヘッドセットはまだサイズが大きく、扱いにくいうえに遅く、また視野も限られているが、それでも一部の従業員は職場で使用する必要がある。
Mehkri氏は、「労働力はまた、消費者でもある。だから、われわれは『彼らはこのハードウェアを購入し、一日中装着できるだろうか?』と自らに問いかけるが、答えは『いいえ』だ。一般的に、AR/VR用のハードウェアを作り、受け入れ、使用していくには、多くの改善が必要だ」と説明する。
「AR/VRは、Flexが長年注目してきたテクノロジーであり、今後、産業界でより一般的になると予測している。製造業からのブレークスルーによって消費者のライフスタイルにまで浸透する、という流れが業界を加速している。これは、テクノロジーを発展させるために多くのものが組み合わさっていく分野といえる」(Mehkri氏)
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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