筑波大学や東京大学らの共同研究グループは、分子の化学構造式と粉末X線回折パターンを用いて、有機半導体の移動度を予測するシミュレーション法を開発した。高性能な有機半導体の材料開発に要していた作業時間と労力を大幅に削減することが可能となる。
筑波大学や東京大学らの共同研究グループは2020年2月、分子の化学構造式と粉末X線回折パターンを用いて、有機半導体の移動度を予測するシミュレーション法を開発したと発表した。高性能な有機半導体の材料探索にはこれまで、単結晶の作製などが必要であったが、開発した手法を用いると材料開発の作業時間と労力を大幅に削減することができるという。
今回の研究成果は、筑波大学数理物質系の石井宏幸助教と小林伸彦教授、コンフレックスの小畑繁昭研究員、豊橋技術科学大学情報・知能工学系の後藤仁志准教授、東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授と岡本敏宏准教授、渡邉峻一郎特任准教授らによるものである。
有機半導体は低温プロセスで印刷が可能なことから、次世代電子材料として注目されている。ただ、高性能な半導体デバイスを実現するには、移動度の高い有機半導体材料を開発していく必要がある。
ところがこれまでの材料開発では、新たな有機半導体分子の合成から単結晶の作製、トランジスタの作製および、試作したチップの移動度評価など、多くの作業を繰り返し行う必要があるため、開発効率が課題となっていた。
共同研究グループは今回、分子の化学構造式と粉末X線回折パターンから、単結晶構造と移動度などの材料特性を短期間で予測するシミュレーション法を開発した。従来方式とは異なり、単結晶構造の測定データを用いずに、高い精度で移動度を予測することができるのが特長だ。
具体的には、筑波大学の石井氏と小林氏らが、予測構造に対する移動度の大きさと温度依存性を速やかに予測する「大規模量子伝導シミュレーション法」を開発。コンフレックスの小畑氏と豊橋技術科学大学の後藤氏らが、網羅的な結晶構造探索とエネルギー評価による「結晶構造予測シミュレーション法」を開発した。
今回はこれらのシミュレーション手法に新しい評価法を導入した。それは、予測の精度向上と時間短縮を可能にするもので、大きな単結晶よりも簡便に得られる粉末結晶のX線回折パターンを利用した。
開発したシミュレーション手法を、東京大学の岡本氏や竹谷氏らが開発した高性能半導体分子「C10-DNBDT」に適用した。この結果、渡邉氏や竹谷氏らが測定によって明らかにした結晶構造やトランジスタ移動度を、高い精度で再現できることが分かった。
今回用いた大規模量子伝導シミュレーション法は、温度差により発電する熱電物性の計算にも拡張できる。このため、有機半導体の移動度に加え、「熱電物性や熱伝導などの機能予測にも活用することが可能」と研究グループはみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.