熊本大学と東北大学の研究グループは、室温で選択的に二酸化炭素を吸着し、スピン状態を変化させるコバルト(II)錯体の開発に成功した。研究成果は金属錯体型ガスセンサー向けの分子設計に寄与するとみられている。
熊本大学大学院先端科学研究部の速水真也教授と仲谷学博士(現在は城西大学助教)および、東北大学金属材料研究所の高坂亘助教と宮坂等教授らによる研究グループは2020年4月、室温で選択的に二酸化炭素(CO2)を吸着し、スピン状態(電子状態)を変化させるコバルト(II)錯体の開発に成功したと発表した。研究成果は金属錯体型ガスセンサー向けの分子設計に寄与するとみられている。
コバルト(II)錯体は、金属イオンと有機物(配位子)からなる化合物である。熱や光、圧力、あるいはガス分子といった外部刺激に応じてスピン状態を変化させる磁気特性(スピンクロスオーバー現象)を示すことから、「スピンクロスオーバー錯体」と呼ばれ、センサーやメモリデバイスへの応用が期待されている。
研究グループは今回、室温で大気圧のCO2を選択的に吸着し、その吸脱着に応じてスピンクロスオーバーを起こすコバルト(II)錯体を開発した。具体的には、カルボン酸を導入したターピリジン配位子を用いて合成した。錯体分子が分子間相互作用で集合することによって、集合体は擬似的な「細孔」を形成している。
合成直後の細孔には、水分子が入っているという。これを加熱して水成分を除去しても、細孔は保たれることが分かった。そこで、酸素や窒素、CO2の吸着実験を行ったところ、CO2のみを選択的に吸着することも明らかとなった。
研究グループは、スピン状態を測定した。この結果、水分子が入っている状態だと、コバルト(II)錯体は300K(27℃)までの低温度領域において低スピン状態である。水分子を除去すると、400K(127℃)で高スピン状態となり、100K(−173℃)以下では低スピン状態へと変化する熱誘起スピンクロスオーバーを示すことが分かった。
水成分を除去しても保たれる細孔は、最高2分子のCO2を吸着するという。これによって、コバルト(II)錯体の低スピン状態が安定し、CO2分圧が高スピンと低スピン変換の転移温度を変化させている。室温では、高スピン状態と低スピン状態を切り替えることが可能だという。
研究グループは、「配位子の設計を変更すれば、さまざまなガスに応じて異なるスピン状態を示すコバルト(II)錯体の合成も可能」とみている。
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