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量子コンピュータよ、もっと私に“ワクワク”を踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(2)量子コンピュータ(2)(1/9 ページ)

この連載のために量子コンピュータについて勉強し続けていますが、今一つワクワクしません。ハードがないのにアルゴリズムの研究が何十年も行われているのは素直にすごいと思いますが、ことアプリケーションの話になると、どうも“ショボい”気がするのです。そうは言っても、連載を続けないといけませんので、「私の、私による、私が楽しむためだけの記事」として筆を進めることと致します。

» 2020年05月25日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

「業界のトレンド」といわれる技術の名称は、“バズワード”になることが少なくありません。“M2M”“ユビキタス”“Web2.0”、そして“AI”。理解不能な技術が登場すると、それに“もっともらしい名前”を付けて分かったフリをするのです。このように作られた名前に世界は踊り、私たち技術者を翻弄した揚げ句、最後は無責任に捨て去りました――ひと言の謝罪もなく。今ここに、かつて「“AI”という技術は存在しない」と2年間叫び続けた著者が再び立ち上がります。あなたの「分かったフリ」を冷酷に問い詰め、糾弾するためです。⇒連載バックナンバー

何だか一向に楽しめない、量子コンピュータの勉強

 最近、この連載のために、市販の量子コンピュータの本を繰り返し読んでいますが ――はっきりいって、楽しくない

 それは、量子コンピュータの本を執筆している人も分かっているようでして、なんとか読者に興味を持ってもらう為の工夫が見られます。平易な言葉を使ったり、手書き風の図面を入れたり、かわいいキャラクターを登場させたり、タイトルを工夫したりといった具合です。

 これらの著者の皆さんのおかげで、私のような浅学で知能も高くない人間でも、最後のページにたどりつくことができています(もちろん、できない本もあります)。しかし、それは、私が、これらの本を読み切って、理解しなければ、このコラムの連載が続けられないからです。

 ―― では、もし、私が、「連載」というミッションを持っていなかったら、どうだっただろうか。

 量子コンピュータの研究を「仕事」としなければならない社会人(研究員や技術者)や、「卒論」として纏めなければ卒業させてもらえない学生なら、そりゃ、死にもの狂いで勉強して理解して研究開発するしかないでしょう。人生がかかっているのです。気合が違います。

 比して、一日、下手すると数時間以内に記事を上げなければならない編集者やライターにとって、「量子コンピュータ」は、飯のタネの一つに過ぎません。その内容は、専門家の文章や発言の「コピペ」となり、自分の想像できる範囲の「おいしい」を並び立てる記事になります。これは仕方のないことです*)

*)EE Times Japan編集部と私からの弁明です。

 その「コピペ」または「おいしい」記事を読んだ読者はそれを信じます。なぜ信じるかというと、疑う手段を持っていないからです―― 複素数や波動関数や量子ビットの作り方なんぞ知り得る訳がありませんし、理解したいとも思いません。「おいしい」があるという事実で十分です。読者は、その内容をコピペ、量産して、SNS等で流布し―― そして、この拡大再生産プロセスが続きます。

 こうして、バズワードは完成します。

 「量子コンピュータ」という言葉を知った人は、「おいしい」に引き込まれて、本屋、またはAmazonで「量子コンピュータ」と名のついた本を手に入れようとします。平易な言葉で書かれていて、カラー刷りで、イラストが多くて、そして可能なかぎり数式が記載されていないものを選びます。

そして、「第1章 量子コンピュータの歴史」、「第2章 量子コンピュータが作る未来」というところまで読み進み、「虚数i」が登場したところで静かに本を閉じます。そして、そのままその本のことを忘れます。

 こうして、バズワードは当初のミッションを終了して、その役割を完了するのです。

 あえて、このバズワードのメリットを挙げるのであれば、「出版や広告業界に対する小規模なバブル」と「未来への微かな期待」を与えていることでしょう。

 しかしながら、前回述べたように「バズワードは、私たち研究者、技術者を使い捨てにしていく」という事実には変わりありませんので、相変わらず私の憎悪の対象であることには違いありません。

 ちなみに、私の憎悪は、相当にゆがんでいて、悪質で、かつ、執念深いです。

 人工知能の連載の際にも述べましたが、今回の人工知能ブームで、人工知能万能論を主張した人物の記事をアーカイブに残していますし、私に批判的なコメントをしてきた人物もリストアップしています。私のリタイア後の楽しみは、これらの記事や人物を「嗤いモノ」としてさらすことです(いえいえ、冗談ではありません。私は本気です)。

 それはさておき。

 実は、今回の連載「量子コンピュータ」において、私はかなり不安がありました。それは、私が、量子コンピュータに関して、これまで全く接してきたことがない、ずぶの素人だからです。もっとも、他のコラムについても、同様な状況になったことはありますが、(1)週末に自宅で実機を動かす、(2)実際に計算(シミュレーション)をしてみる、などして、自分で自分をだませる程度の自信を持つことはできましした。

 しかし、「量子コンピュータ」は、これまでとは勝手が違うのです。特に、これまでとの決定的な違いは、我が家に「量子コンピュータ」が設営されていないということです。

 そこで今回、私は、この「泣き言」を自分のブログに書き込んで、助けて頂ける方を募りました(ブログ)。その結果、いろいろな方の善意のリレーによって、「量子コンピュータに精通されているお方」に、このメッセージを届けて頂くことができました。

 そのお方に、私からお願いしたことは、

(1)江端の思い込みの記載や主観に基づくメタ表現等は「見逃して」ください
(2)ただし、量子コンピュータの本質的な勘違い、誤解に関しては「容赦なく突っ込んで」ください

という2点でした。面倒くさくて、うっとうしいお願いだったと思いますが、快くお引受け頂けることになりました。

 本連載におきましては、このお方を「量子コンピュータ大好きのTUさん、通称『量オタのTさん』」と呼ばせて頂き、江端の入稿直後の原稿に「容赦なく突っ込んで」頂くことにしました。そして、そのTさんの「突っ込み」を、私の次回の連載の宿題と致します。

 これから、「Tさん」と「無礼な後輩」と「私」の3人で、この連載を回していく予定です。何卒よろしくお願い致します。

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