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量子コンピュータよ、もっと私に“ワクワク”を踊るバズワード 〜Behind the Buzzword(2)量子コンピュータ(2)(9/9 ページ)

» 2020年05月25日 11時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]
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江端さんは英語にも量子コンピュータにも「愛されない」のか

後輩:「詰まるところ…… “エロ”ですかねえ……」

江端:「うん、”エロ”だね。全ての技術革新が、”エロ”でけん引されてきたのは、歴史的な事実だし*)

ご主人様とメイドは、通信の設計図を数秒で書く

後輩:「しかし、量子コンピュータのキラーアプリとしての”エロ”は……これは、内閣府、経済産業省には荷の重すぎるタスクでしょうねえ」

江端:「もちろん、ウチの会社でも無理だし、新興のベンチャーでも難しいだろう ―― だが、どうだろう?”エロ”を全面に押しだした量子コンピュータのクラウドファンディングで、世界中から100億円を集めて、江端家宅に量子コンピュータを設営することは、可能ではないだろうか」

後輩:「この件に関してだけは、江端さんの発言に説得力があるように感じます。今のコンピュータの”エロ”は、現実世界に近づける”エロ”に過ぎません。比して、『我々を、リアルの向こう側の”エロ”へと誘う量子コンピュータ』 ―― これなら、100億円、いけます」

江端:「まあ、量子コンピュータだけではなく、全ての技術フィールドで、私達は、これまでも、これからも、”キラーアプリ”という言葉に苦しめられ続けるんだろうけど」

後輩:「ところで江端さん。今回のコラム、楽しく執筆していましたか?」

江端:「え? どうしてそんなこと聞く訳?」

後輩:「江端さん、『量子コンピュータの未来のアプリケーションが見えなくて、ワクワクしない』って書いていますけど、実は、それ以前に、江端さんは『量子コンピュータそのものに、ワクワクしていないんじゃないか』と思いまして」

江端:「そんなつもりはないけど……そういう風に読めた?」

後輩:「量子コンピュータが、驚がくの高速計算を実現するポテンシャルがあるのは、間違いないでしょう。でも、それだけなら、現状の古典コンピュータの性能向上だけの話ですよね。もちろん桁違いの性能向上が実現される可能性を理解した上で、ですよ」

江端:「正直、その点が、私にもよく分からないんだ。これまで勉強してきた限りでは、量子コンピュータのアーキテクチャが、意図的に古典コンピュータのアーキテクチャに寄せて作られてきた、というのは事実だと思う。ビットとかゲートとかは、基本的には古典コンピュータの考え方だしね」

後輩:「実は、これまでとは全く異なる、驚くような量子世界のパラダイムがあるのかもしれません。でも、私たちの凡人の多くのは、その量子世界パラダイムを理解できないから、量子コンピュータの世界の人たちが、『仕方なく』『渋々』『無理して』『忖度(そんたく)して』古典コンピュータのパラダイムを使ってくれている、という可能性があるのではないでしょうか」

江端:「そこ、知りたいな。たとえ私たちに理解できなくても、「私たちには見えないけど、量子コンピュータの世界の人たちだけには見えている、驚くようなパラダイムがある」という事実があれば、元気が出そうだ」

後輩:「まあ、物理法則というのは、この世界で、私たちが、何回も、何百回も、何万回も観測された、「圧倒的な数の経験則」ですからね。逆に言えば、私たちが日常的に観測できない、量子レベルのミクロのパラダイムは……まあ、そりゃ、見えませんよ」

江端:「私たち研究員が、『常日頃から、世界を経験則に当てはめて解釈するようにトレーニングされている』ことが、そのパラダイムを見えなくしている可能性もあるかもしれないなぁ」

後輩:「そういうことを全部ひっくるめて、今回のコラムの中に登場する「量子コンピュータに愛される資質」というのは、なかなかうまい表現だと思います」

江端:「そう?」

後輩:「ええ、とてもうまいです。例えば、それを使えば、

―― 江端さんは、英語にも愛されていない*)上に、量子コンピュータにも愛されていない

と、まとめることができますからね」

*)「「英語に愛されないエンジニア」のための新行動論」連載バックナンバー一覧


Profile

江端智一(えばた ともいち)

 日本の大手総合電機メーカーの主任研究員。1991年に入社。「サンマとサバ」を2種類のセンサーだけで判別するという電子レンジの食品自動判別アルゴリズムの発明を皮切りに、エンジン制御からネットワーク監視、無線ネットワーク、屋内GPS、鉄道システムまで幅広い分野の研究開発に携わる。

 意外な視点から繰り出される特許発明には定評が高く、特許権に関して強いこだわりを持つ。特に熾烈(しれつ)を極めた海外特許庁との戦いにおいて、審査官を交代させるまで戦い抜いて特許査定を奪取した話は、今なお伝説として「本人」が語り継いでいる。共同研究のために赴任した米国での2年間の生活では、会話の1割の単語だけを拾って残りの9割を推測し、相手の言っている内容を理解しないで会話を強行するという希少な能力を獲得し、凱旋帰国。

 私生活においては、辛辣(しんらつ)な切り口で語られるエッセイをWebサイト「こぼれネット」で発表し続け、カルト的なファンから圧倒的な支持を得ている。また週末には、LANを敷設するために自宅の庭に穴を掘り、侵入検知センサーを設置し、24時間体制のホームセキュリティシステムを構築することを趣味としている。このシステムは現在も拡張を続けており、その完成形態は「本人」も知らない。



本連載の内容は、個人の意見および見解であり、所属する組織を代表したものではありません。


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