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スパコンの無償提供でコロナ対策支援、IBMなどコンソーシアム発足から2カ月

スーパーコンピュータを活用して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に立ち向かうプロジェクトが米国で発足して、約2カ月がたった。どんなプロジェクトが進行しているのか。

» 2020年06月04日 11時30分 公開
[Sally Ward-FoxtonEE Times]

 IBM Researchのディレクターを務めるDario Gil氏は2020年3月17日(米国時間)、米国政府のCTO(最高技術責任者)であるMichael Kratsios氏に電話をかけ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対処する研究プロジェクトの進展の加速するために、スーパーコンピュータ(スパコン)のコンソーシアムを創設することを提案した。

 その5日後には、米国国立研究所と国立科学財団、NASA(アメリカ航空宇宙局)、大学、Microsoft、Google、Amazon、HPE(Hewlett Packard Enterprise)など、数十ものパートナーが同コンソーシアムに参加していた。

 Gil氏とKratsios氏がコンソーシアムの発足について電話で協議してから1週間足らずで、これまでで最大規模の官民コンピューティングパートナーシップが、面倒な契約手続きを踏むことなく結成された。さらに、欧州のいくつかのスーパーコンピュータもこの取り組みに活用されることになった。これらの機関や企業は、スーパーコンピュータのリソースを提供してCOVID-19に関連する研究提案にマッチングするために、直ちに行動を起こす必要があると感じていた。

 コンソーシアムが始動して約2カ月が経過したが、その間にCOVID-19関連の56の研究プロジェクトにスーパーコンピュータのリソースが無償提供された。同コンソーシアムではこれまでに、40以上のパートナーが430PFLOPS(ペタフロップス)の処理能力を無償で提供している。

コンソーシアムに参加しているTexas Advanced Computing Centerのスパコン「Stampede2」 画像:Texas Advanced Computing Center(クリックで拡大)

 あるプロジェクトでは、同コンソーシアムの計算能力を活用して、COVID-19を含有する飛沫が空気中をどのように移動するかをマッピングしている。このプロジェクトは、米ユタ州立大学の研究チームが米ローレンスリバモア国立研究所、米イリノイ大学と共同で実施し、空気の乱流をシミュレートしてウイルスがどのように拡散するかを調べている。病院や屋内でのウイルスの感染経路は完全には解明されていないため、これは重要な研究分野である。

 ウイルスを含んだ飛沫の複雑な多相乱流をスーパーコンピュータで計算してシミュレーションすることで、飛沫の粒子がどのように移動し、どこに沈殿するかを把握できる。以下に示されているのが、シミュレーションモデルである。このアニメーションは、空調システムを介して病室に入ってくる空気を表している(チームは、さらに大きな病室でもシミュレーションを実施している)。

出典:ユタ大学

 このプロジェクトの研究員であるユタ州立大学教授のSom Dutta氏は、「病室の空気の流入と流出は、特に、くしゃみや咳はしないが会話や呼吸をするだけで頻繁にエアロゾルを発生させる無症候性キャリアが、エアロゾル輸送を引き起こす主な要因の一つである」とEE Timesに説明した。Dutta氏の説明によると、発話によって放出されるような非常に小さな(5μm未満の)エアロゾル液滴の場合、飛沫の速度は周囲の空気の速度(空調によって決定される)とほぼ同じだという。

 その他、3000種の薬草から抗ウイルス性物質を探し出すインドのプロジェクトなどがある。インドのNovel Techsciencesは、スーパーコンピュータを活用し、新型コロナウイルスのタンパク質の標的に作用する化学物質を特定する計画だ。

 一方、NASAは、COVID-19にかかりやすくなる遺伝的特徴を調べることで、ウイルスの拡散を予測しようとしている。このプロジェクトでは、スーパーコンピュータによって行われるゲノム配列決定とDNA配列決定が行われる。ワクチンや抗ウイルス薬の臨床試験に適した患者を特定するためだ。

【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】

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