東北大学の研究グループと日本電気硝子は、黒色なのに電気を流さないセラミックス薄膜を共同で開発した。タッチパネルに応用すると、電源を切った状態でパネル面は真っ黒となり、高級感ある漆黒の外観を実現できる。
東北大学大学院工学研究科の山口実奈氏(博士課程後期1年)と高村仁教授らの研究グループは2020年6月、日本電気硝子との共同研究により、黒色なのに電気を流さないセラミックス薄膜を開発したと発表した。タッチパネルに応用すると、電源を切った状態でパネル面は真っ黒となり、高級感ある漆黒の外観を実現できるという。
タッチパネルは、「ディスプレイ」や「タッチセンサー」「反射防止パネル」といった主要部品で構成されている。特に、製品のデザイン性でいうと反射防止パネルが重要になるという。ところが、一般的な反射防止パネルは透明で、電源を切った状態だと外光の反射などにより、内部が透けて見えるのが現状だった。
研究グループはこれまで、さまざまなセラミックス薄膜をパルスレーザー蒸着法で合成し、その光吸収特性を調べてきた。そして今回、金属とナローギャップセラミックスからなる複合体が、可視光全域を強く等強度に吸収し、同時に電気を流さない特性を示すことが分かった。
特に、銀(Ag)と酸化鉄(Fe2O3)を用いた場合、同一の膜厚であればカーボンより強く等強度の可視光吸収を示すことが分かった。同時に、電気抵抗は一般的な金属に比べ約100万倍(シート抵抗は108Ω)となることを確認した。
この要因について研究グループは、「金属が原子レベルでセラミックス中に分散されたことが大きく関係している」とみている。開発した材料を電子顕微鏡で観察し、数ナノサイズの金属銀粒子と酸化鉄セラミックスの間に、これらが原子レベルで混合された中間状態の部分を確認した。
これは、開発した材料が、金属とセラミックスに完全分離するための温度条件を満たさずに合成されたためだという。この結果、銀は60mol%という高濃度でも、金属銀粒子同士が接続されず、電気が流れにくくなった。しかもこの分散状態は、金属部分が担う可視光長波長側の吸収と、ナローギャップセラミックスが担う可視光短波長側の吸収を、それぞれアシストするために、可視光全域を強く吸収する特性が現れるという。
研究グループは、今回の研究成果について、1〜2年後の実用化を目指している。また、開発した材料を液晶ディスプレイのカラーフィルターに用いれば、映像の暗部表示がより美しくなるとみている。さらに、酸化物中にナノスケールで分散された金属ナノ粒子の新たな機能性などにも注目している。
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