東京工業大学は、有機トランジスタ用半導体の超高速塗布成膜に成功した。ディップコート法と液晶性有機半導体を活用することで、従来の溶液プロセスに比べ成膜速度は2000倍以上も速い。
東京工業大学科学技術創成研究院未来産業技術研究所の飯野裕明准教授と半那純一名誉教授、Hao Wu研究員(当時)らは2020年7月、有機トランジスタ用半導体の超高速塗布成膜に成功したと発表した。ディップコート法と液晶性有機半導体を活用することで、従来の溶液プロセスに比べ成膜速度は2000倍以上も速いという。
印刷技術を用いるプリンテッドエレクトロニクスの実用化には、移動度の高いトランジスタ開発に加え、トランジスタに用いる有機半導体膜の高速成膜が欠かせない。研究グループは、液晶性を示す有機半導体「Ph-BTBT-10」を開発、「スピンコート法」を用いて高品質の多結晶膜が作製できることを明らかにしてきた。この方法で作製した多結晶膜は均一性と平たん性に優れ、これを用いたトランジスタは、10cm2/Vsを超える移動度を実現することも可能だという。
今回は、これらの研究成果を踏まえて、基板サイズの制限を受けない「ディップコート法」による多結晶膜の形成とその高速化を検討した。Roll-to-Roll法で基板に有機半導体結晶膜を形成することを狙った。
実験では、毎分0.3mmという単結晶の成長条件から成膜速度を徐々に上げていった。そうすると、毎分数cmで一定の結晶方位にそろった大粒径の多結晶膜が得られた。毎分2.4mまで成膜速度を上げると、モザイク状の組織を持つ無配向の多結晶膜が得られることを見いだした。特に、モザイク状の組織を持つ多結晶膜は、基板全面に結晶膜を形成することができ、均一性も高いという。
研究グループは、SiO2/Si基板上に作製した結晶膜を用い、ボトムゲートボトムコンタクト型トランジスタを試作して、その特性を評価した。この結果、モザイク状の組織をもつ多結晶膜では、4.1cm2/Vsという高い移動度を示した。しかも、移動度の異方性は配向性をもつ多結晶膜より小さく、トランジスタの集積化に適していることが分かった。10cm角の基板上に250個のトランジスタを作製し評価したところ、同様の移動度を実現できたという。
今回の実験では成膜速度を最大毎分2.4mとした。この速度は使用したディップコーターの性能に制限されたもので、成膜速度をさらに上げることも可能とみている。また、Ph-BTBT-10とは別の液晶性有機半導体「C8-BTBT-C8」を用いたトランジスタでは、5.2cm2/Vsの平均移動度を実現した。
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