東京工業大学は、層状ペロブスカイトの一種であるDion-Jacobson相で、酸化物イオン伝導体「CsBi▽▽2▽▽Ti▽▽2▽▽NbO▽▽10-δ▽▽」を発見した。高いイオン伝導度の発現機構についても明らかにした。
東京工業大学理学院化学系の八島正知教授と張文鋭大学院生らの研究グループは2020年3月、層状ペロブスカイトの一種であるDion-Jacobson相で、酸化物イオン伝導体「CsBi2Ti2NbO10-δ」を発見したと発表した。開発した酸化物イオン伝導体が示す、高いイオン伝導度の発現機構についても明らかにした。
酸化物イオン伝導体は、革新的な固体酸化物形燃料電池や酸素分離膜、触媒およびガスセンサーなどの開発に向けて、注目を集めている材料の1つである。Dion-Jacobson相は、優れた電気的特性や物理的特性、化学的特性を備えている。層状ペロブスカイトやペロブスカイトと同様に、酸化物イオン伝導性を示すとみられているが、これまでDion-Jacobson相の酸化物イオン伝導体は報告されていなかったという。
研究グループは今回、新型高酸化物イオン伝導体の発見に向けて、結晶構造データベースと結合原子価法を用いた高速スクリーニングの実施と、「Cs+のサイズが大きいこと」「Bi3+の変位によるイオン伝導度の向上」という概念に基づき、新たな設計法を適用したという。また、結晶構造解析によって判明した、酸素原子の大きな異方性熱振動や酸素空孔、酸化物イオン伝導層の存在が、高イオン伝導度発現の原因であることを突き止めた。
候補材料の選定に当たっては、無機結晶構造データベース(ICSD)に登録された69種類のDion-Jacobson相に関する83個の結晶学データに対し、結合原子価法を用いて高速にスクリーニングを行った。この中から、酸化物イオンの移動のエネルギー障壁Ebが比較的低いCsBi2Ti2NbO10-δを選んだ。
CsBi2Ti2NbO10-δは、Cs+のサイズが大きいために格子が広がり、Cs+層で挟まれたペロブスカイト層における酸化物イオン移動のボトルネックが広がって、酸化物イオン伝導度が高くなるという。
CsBi2Ti2NbO10-δは、1173Kの環境で固相反応法により合成した。その後、高温放射光X線と中性子回折実験を行って、リートベルト法により結晶構造を精密化した。この結果、293〜813Kでは直方晶系、空間群Ima2のDion-Jacobson型構造、833〜1173Kでは正方晶系、空間群P4/mmmのDion-Jacobson型構造であることが分かった。
この直方‐正方相転移は可逆で1次であり、加熱時の直方‐正方相転移に伴って酸素空孔量が増加するという。また、粒内の伝導度を測定したところ、直方から正方相転移に伴って粒内の伝導度が不連続的に増加することを明らかにした。
高い酸化物イオン伝導度の実証実験も行った。この結果、O2-が支配的なキャリア(電荷担体)であることが判明した。1073Kにおける粒内の伝導度は8.9×10-2Scm-1である。この数値はYSZ(イットリア安定化ジルコニア)より高く、LSGM(ガリウム酸ランタンLaGaO3)などに匹敵するレベルだという。相安定性が高いことも分かった。
研究グループは、酸化物イオン伝導度が高くなる仕組みも解明した。それは、大きなサイズのCs+とBi3+のc軸に沿った変位によって、O2-移動のボトルネックが広がる。これが、高いO2-の伝導度を実現できる要因だとみている。
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