これまでに人類が撲滅することができたウイルスはたったの2つ。ヒトの感染症である天然痘と、ウシの感染症である牛疫のみです(参考)。
天然痘ウイルスとSARS-CoV-2を比較してみると、宿主の多様性、潜伏期間や感染様式、発症までのウイルス産生能、ワクチンの有無、抗原変異性など、SARS-CoV-2の持つ性質はことごとく根絶の可能性からかけ離れています。
COVID-19がどれくらい困難かを端的に言えば「風邪を世の中から根絶するのと同じくらい難しい」と言わざるを得ません。ぶっちゃけ、限りなく不可能に近い、というのが現実のようです。やはり希望は「治療薬とワクチン開発によって重症化率と致死率を下げる(×根絶する)」という点に集約されそうです。
COVID-19については、まだ確定しませんが、既存の4種の風邪コロナウイルス感染症については、印象通り冬に多く、夏場は冬場の10分の1程度、と言うことになっています(参考)。
SARS-CoV-2がこれまでのコロナ風邪と同様の季節性を示すかどうかは確定していません。ただ、可能性は十分あります。もしもCOVID-19が普通の風邪と同様の季節性を示すなら、11月ころから感染者数の爆発的増加が発生するかもしれません。
何が怖いかと言うと、7月上旬の最近の新規感染者数の動向を見ると、第2波到来を示唆するような増加傾向を示していますが、本来夏場はウイルスにとっては、とても悪い条件のハズなのです。
一般的にコロナウイルスは、紫外線の弱い季節、かつ乾燥した空気により感染力を上げることができるとされているのです ―― つまりウイルスの主戦場は、「冬」です。
そういう意味では、梅雨の時期は、コロナウイルスにとっては本来は最悪の条件のはずなのですが、その最悪の時期に、自治体が発表するコロナウイルスの感染者の数は徐々に増大しています。秋以降のCOVID-19患者数の動向がちょっと怖い今日この頃です。
世の中が、劇的に変化しています。医学的、公衆衛生額的な意味においてです。
3密禁止やマスク着用、手洗いの徹底などの新しい生活様式が、日本を激変させた様子が、数字となって現れています。衝撃的な結果です。皆さん、ぜひ自分の目でご確認ください。
このページは、東京都における指定医療機関からの各感染症の報告をまとめたものです。全国版を見ることができるホームページもありますが、前年との比較が直感的に出来ないので、こちらの東京都のページを紹介させて頂きます。全国と東京でおおよそ傾向は一致しております。
ページを開いた直後、デフォルトの状態では「前年と比較」が選択されているかと思います。「5年間比較」を選択してみてもよいでしょう。
「感染症名」のプルダウンメニューから感染症名を適当に選択して、「更新」ボタンを押します。すると、現在までの各感染症の数(数/定点)がグラフで表示されます。
ぜひ、ご覧になられることをお勧め致します。RSウイルスを初めとして、とにかくこの数年で最低を記録しています。
ヒトの行動が感染症の動向を変化させることは、理屈では当たり前のことではありますが、数字となって示されているのを見ると感動的です。
逆に、学校という教育制度がいかに感染症の温床になっていたかということを示唆するデータなのかもしれません。今後の「学校再開+新しい生活様式」という組み合わせによってグラフがどのように変化するのか、推移を注目したいと思います。
劇的な感染症数の減少の原因は、「純粋に感染症が減った」以外にも、あまり考えたくない一つの可能性として実は「単に観測されなくなっただけ」と言う可能性もあります。
「病院に行ったらCOVID-19に感染するかもしれないから、単に風邪程度で病院に行かなくなった」という可能性です。
過半数の開業医で収入が減少している、ボーナスをカットされた医療従事者が相当数いるという調査結果やニュースが出ていますので、感染症に罹患した患者がなかなか病院を受診しないという可能性は否定できません。
個人的には「病院から足が遠のいた影響だけでは、ここまで劇的なグラフ変化はないだろう」「きっと患者数は実際に減少しているはずだ」と思っています。
そこまで気にしなくてもいいはずと思いつつ、ちょっと気になっていることがあります。新しい生活様式の徹底によって、恐らく今後数年間、もしかしたらそれ以上の期間にわたってヒト-ヒト間で伝染していく感染症の罹患数が激減したまま推移する可能性があります。
今まで小児期に一通りの感染症にかかっていた子供たちが、無菌状態で成人まで育ったときに一体何が起こるのか……。長期的に見て人類にどのような影響をもたらすのか、注意深く見ていく必要がありそうです。
また、今後来るであろうCOVID-19の第2波と各種感染症のグラフ波形との相関も注目したいところです。
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