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あの医師がエンジニアに寄せた“コロナにまつわる13の考察”世界を「数字」で回してみよう(64)番外編(11/13 ページ)

» 2020年07月23日 18時30分 公開
[江端智一EE Times Japan]

【考察12】COVID-19をどれくらい怖がるべきかを考えてみる

 死亡率が高いのも分かる。怖いのも分かる。でも、どれくらい怖がれば良いのかよく分からない……。そんな声をよく聞きます。

 こういう場合は、「歴史に学ぶ」が常道です。今回は、過去に人類が体験した感染症とざっくり比較して見てみたいと思います*)

 SARS/MERS(中東呼吸器症候群)や、スペイン風邪(≒超強毒新型インフルエンザ)については、多くの人も論じていますしWikipediaに詳細もありますので、ここではもう少しなじみのある感染症と比較してみたいと思います。

 過去の日本でも高い死亡率を持ち、「命定め*)」として知られた麻疹(はしか)です。

*)江戸時代(というか、比較的最近までも)、「子どもが7歳まで生き残ったら(死亡率50%以上)勝ち組」という時代が続いてきました(後述)。これが、「七五三」の由来 ―― 3歳、5歳は必勝祈願、7歳は戦勝パレード ―― です。

 1966年からワクチンが導入され、医療体制の充実と共に患者数は激減し、現在の日本における死亡率は0.1%程度まで低下しています。

 しかし、戦後しばらくまでは麻疹は命に関わる病気であり、しかも毎年の様に流行していました。死亡者数を見てみると1950〜1960年では毎年ざっくり4〜8万人が感染し、2000〜3000人が死亡すると報告さていたようです。

 資料中に堂々と「死亡者も感染者も、実際にはもっと多かったのではないか」と書かれていますが、まともな検査キットも無い時代ですので、数倍の誤差があってもおかしくはないでしょう。死亡者の8〜9割が4歳までで、20歳を超して死亡する人の割合は極めて低いです(参照)。

 理由は簡単で、幼児のほとんど全員が感染し、生き残れば終生免疫を獲得することができた。ただそれだけです。ちなみに、はしかは空気感染する疾患の代名詞であり、そのR0は12〜18にも及ぶとされています(参考)。

 感染者の数パーセントが命を落として、助かってもそれなりの数の合併症や後遺症を残していたのですから、「命定め」のネーミングは伊達(だて)ではありません。「ワクチンが開発されて良かった……」「治療技術がしっかりしている時代に生まれて良かった……」と心底思います。そうでなければ私は生きていなかった自信があります。

 さて、世界における麻疹はどうでしょう。正直、ヤバイです。毎年3000万人が感染し、90万人ほどが命を落としています。ワクチンと医療が整った日本に生まれて良かったとホッとすると共に、経済、教育、医療の格差がもたらす現実は、想像を絶するものがあります。そりゃ、飢えが満たされていないのに、ワクチンが行き渡るはずはないですよね……。

 なかなか比較するのは難しいですが、総合的に見れば、COVID-19は過去の日本における麻疹、そして現在の発展途上国における麻疹に匹敵するような恐ろしさと影響力を持っていると言えそうです。

 死亡する世代を考えた場合には、麻疹で「幼児」が亡くなるかそれともCOVID-19で「高齢者」が亡くなるかという差があります。幼児が次々に亡くなるのと、長年お付き合いのある人、社会的地位にある年齢の人が次々に亡くなっていくのを比較するのは……期待余命による数値化などによってインパクトを数値化することも可能ではありますが、自重します。

 さて、比較対象として途上国における麻疹の悲惨な現状を挙げてみましたが、日本に住む私たちはどれくらいの人がこの現実を知っていたでしょうか。実際、私も調べるまで途上国における麻疹の現状を知りませんでした。恥ずかしながら身に降りかからない不幸は、調べようともしていませんでした。

 逆に、途上国から先進国を見てみた場合はどうでしょう。麻疹に加えて貧困・飢餓・医療公衆衛生格差(下痢やマラリア)などで老若男女がパタパタと人が亡くなっている国から先進国を見れば、COVID-19による死亡数は、「私たちの日常よりずっとましだけど、何か問題あるの?」くらいに思われていても不思議はありません。

 COVID-19をどれくらい怖がればいいのか。これはなかなかに難しい問題のようです。

 脅威度を下げるため、少しでも早くワクチンが開発されてCOVID-19がはやく制御可能な疾患になりますように……と、心の底から思います。

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