物質・材料研究機構(NIMS)は、リチウム空気電池のサイクル寿命を劣化させるといわれている「充電電圧(過電圧)の上昇」について、その原因を特定した。リチウム空気電池の実用化研究に弾みをつける。
物質・材料研究機構(NIMS)は2020年8月、リチウム空気電池のサイクル寿命を劣化させるといわれている「充電電圧(過電圧)の上昇」について、その原因を特定したと発表した。リチウム空気電池の実用化研究に弾みをつける。
リチウム空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を、負極にはリチウム金属をそれぞれ用いる。理論エネルギー密度は現行のリチウムイオン電池に比べ数倍となる。このため、ドローンやIoT(モノのインターネット)機器、電気自動車など幅広い用途でその応用が期待されている。ただ、現状ではサイクル回数が数十回レベルにとどまるなど、実用化に向けては解決すべき課題もあった。
NIMSエネルギー・環境材料研究拠点のArghya DUTTAポスドク研究員やNIMS−SoftBank先端技術開発センターの久保佳実アドバイザー、野村晃敬主任研究員、先端材料解析研究拠点の伊藤仁彦主幹研究員らによる研究チームは今回、放電生成物である過酸化リチウム(Li2O2)の結晶性に着目し、充電電圧との関係を調べた。
Li2O2の生成(放電反応)には、「カーボン電極上での反応」と「電解液を介した反応(不均化反応)」という2つの経路があるという。今回の実験で、後者によるLi2O2の充電(分解)には、4V以上の電圧が必要であった。これに対し前者の場合は、3.5V以下で充電することができ、Li2O2の結晶性が低いことも判明した。この結果から、充電電圧の上昇は不均化反応による高結晶性Li2O2に由来することが分かった。
実験では、正極用カーボン材料のケッチェンブラック(KB)について、その処理条件による充電電圧と結晶性の変化を調べた。未処理品と比べ、酸化処理品は充電電圧が下がり、還元処理品では上がった。
一方、放電後のLi2O2についてX線回折強度を測定した。この結果、酸化処理品の結晶性は極めて低く、還元処理品では高くなることが分かった。これは充電電圧が低いものほど、Li2O2の結晶性が低いことだという。
研究チームは今後、低結晶性のLi2O2を優先的に生成する手法を確立し、リチウム空気電池のサイクル寿命を延ばしていく。さらに、NIMS-SoftBank先端技術開発センターで、リチウム空気電池の実用化研究を加速していく。
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