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製造プロセスの適合性が高い有機半導体を開発高い溶解性と移動度を両立

東京大学や富山高等専門学校、筑波大学らの研究グループは、蒸着法や印刷法などの製造プロセスを適用して、高性能の有機半導体「C▽▽10▽▽-DNS-VW」を開発した。安価な電子タグやマルチセンサーの実用化を加速する。

» 2020年08月25日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

特異な構造相移転挙動を活用

 東京大学や富山高等専門学校、筑波大学らの研究グループは2020年8月、蒸着法や印刷法などの製造プロセスを適用して、高性能の有機半導体「C10-DNS-VW」を開発したと発表した。安価な電子タグやマルチセンサーの実用化を加速する。

 今回の研究成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科の岡本敏宏准教授や三谷真人特任助教、竹谷純一教授、同大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻の加藤隆史教授、富山高等専門学校物質化学工学科の山岸正和講師、筑波大学数理物質系の石井宏幸助教、北里大学理学部物理学科の渡辺豪講師および、産業技術総合研究所産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリらの研究グループによるものである。

 有機半導体は、一般的にπ電子系分子からなる。半導体性能を示す「移動度」や「電極からの電荷注入のしやすさ」を向上するためには、「π電子系骨格の拡張」と「2次元集合体構造の形成」がカギを握るといわれている。既に、移動度が10cm2/Vs級の有機半導体が報告されている。この数値はアモルファスシリコンに比べ1桁以上も高い移動度である。ところがこれまでは、有機溶媒に対する溶解性が低く、製造時に適用できるプロセスは限られていた。

 研究グループは今回、デシル置換セレン架橋V字型分子である「C10-DNS-VW」を開発した。独自に開発した典型元素架橋V字型π電子系骨格の架橋部位にセレン元素とデシル基を導入した有機半導体である。

 このC10-DNS-VWは、電荷輸送には不利だが高溶解性の「1次元集合体構造」と、電荷輸送に有利だが低溶解性の「2次元集合体構造」という、2種類の集合体構造を形成していることが分かった。しかも、加熱処理によって1次元から2次元へ、良溶媒が存在すると2次元から1次元へ、それぞれ相転移をすることが明らかとなった。

有機半導体C10-DNS-VWの特長 出典:東京大学他

 また、蒸着法や塗布結晶化法といった製造プロセスに関係なく、C10-DNS-VWは薄膜作製時に、高い再現性で2次元構造が得られた。塗布結晶化法を用いてトランジスタを製造したところ、移動度は11cm2/Vsとなり、世界最高レベルを達成した。電荷注入特性も良好で、高環境ストレス耐性を実現できたという。

 分子動力学計算も行った。これにより、基板表面では2次元集合体構造が1次元よりも安定していることを実証した。C10-DNS-VWは、良溶媒存在下での相転移挙動により、1wt%以上の溶解性を有する半導体材料であることも分かった。

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