現在、自動運転車に対する熱狂が高まる中で、車載用の視線検出やDMS(ドライバーモニタリングシステム)の果たす役割が忘れ去られてしまっていないだろうか。視線検出や視線制御の分野では、技術開発や協業が進んでいる。
Steve Jobs氏が2007年に初めて「iPhone」を発表した時、それがいかに将来的に大きな影響を及ぼす重要な出来事であるかを本当に理解していた人は果たしていたのだろうか。そういう筆者も、技術アナリストでありながら、よく分かっていなかった。
そしてその翌年、Jobs氏が「App Store」を発表した時も、やはり同じように、誰も何も分かっていなかったのではないだろうか。
iPhoneとApp Storeは、技術業界のほぼ全ての分野に大改革をもたらした。Jobs氏本人が、自らの掲げたビジョンがビジネスや商業の本質をいかに大きく変化させることになるのかを知っていたのかどうかは分からないが、その後ソフトウェア開発メーカーは、技術の可能性を急速に理解し、想像力や創造性、イノベーションなどを大きく膨らませていくことになる。
アプリケーション開発は、大まかに以下の3つの段階にまとめることができる。
現在、自動運転車に対する熱狂が高まる中で、車載用の視線検出やDMS(ドライバーモニタリングシステム)の果たす役割が忘れ去られてしまっていないだろうか。iPhoneやApp Storeの発表当初と同じように、DMS技術もその重要性が見落とされているのではないか。レベル4の自動運転車が実現に向けた最終段階に入り、「CES」の基調講演でもTOPS性能やAI(人工知能)、ニューラルネットワークなどが取り上げられる中で、「なぜDMSにこだわるのか」という声もあるかもしれない。
ほとんどの人が自動運転車向けAIの開発に注目しているため、AIが人間の運転する車でのドライビングエクスペリエンスを強化することにも適していることに気づいている人は少ない。だが、Qualcommはそうでもないようだ。Qualcommは次世代の車載インフォテインメントシステムの開発に向けて、Googleとの協業を自動車分野に拡大した。
Googleの「Android Automotive OS」を搭載した最初の自動車は、Volvo Carsの傘下であるPolestarが発表した「Polestar 2」だ。だが、Googleは、FCA(Fiat Chrysler Automobiles)、GM、Groupe PSA、Renault-Nissan-Mitsubishi Allianceなど、他の自動車メーカーともAndroid Automotive OSで提携したことを既に発表している。また、既に提携を結んだティア1サプライヤーとしては、Aptiv、Harman International(Samusung Electronics傘下)、パナソニックが挙げられる。
2020年8月、QualcommはADAS(先進運転支援システム)関連でVeoneerと提携したことを発表した。VeoneerはSeeing Machinesが提供する視線追跡技術も所有している。また、QualcommとSeeing Machinesは最近、提携についてさらなる詳細を発表し、インフォテインメントシステム向けの開発キットという形になることを明らかにした。
筆者は、QualcommとGoogleは、Seeing Machinesの技術を使って視線制御を統合した次世代のAndroid Automotive OSを開発中であり、恐らくは2023年に生産を開始するのではないかと見ている。
音声認識ソフトウェアを提供するNuanceから2019年にスピンアウトした企業で、視線検知をインタフェースに使う技術を手掛けるCerenceは、自動車関連の顧客について「Audi、BMW、Daimler、Ford、Geely、GM、SAIC、トヨタ自動車の他、さらに多くのメーカー」と説明しているが、これらの大手自動車メーカーの大半はまだAndroid Automotive OSを導入する計画を発表していない。そのため、ほとんどの大手自動車メーカーが今後数年のうちに、自動車の一部もしくは全モデルに視線制御型のユーザーインタフェースを導入する可能性は極めて高い。
App Storeと同様に、自動車の視線追跡によるメリットが多くの人に明らかになるのは時間がかかるかもしれない。だが、IntelやNVIDIAのように自動運転車向けの高性能プロセッサおよびAIの開発に注力するメーカーがある一方で、CerenceやSeeing Machinesのように、車内での体験を劇的に変化させる技術開発に注力するメーカーもあるのだ。
【翻訳:青山麻由子、田中留美、編集:EE Times Japan】
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