東北大学の研究グループと住友電気工業、高輝度光科学研究センターは、窒化ガリウム(GaN)を用いた超高速トランジスタ(GaN-HEMT)が動作している時に、表面電子捕獲の時空間挙動を直接観測することに成功し、その詳細なメカニズムも解明した。
東北大学電気通信研究所の吹留博一准教授らの研究グループと住友電気工業、高輝度光科学研究センターは2020年10月、窒化ガリウム(GaN)を用いた超高速トランジスタ(GaN-HEMT)が動作している時に、表面電子捕獲の時空間挙動を直接観測することに成功し、その詳細なメカニズムも解明したと発表した。「オペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光装置」を開発することで実現した。
GaN-HEMTは、高速性と高出力性を兼ね備えており、Society 5.0の基盤インフラとなる「5G(第5世代移動通信)」システムや「Beyond 5G」の中核を担うデバイスとして期待されている。ところが、性能をさらに高めていくには、「電流コラプス現象」など、解決すべき課題もあるという。
そこで今回は、GaN-HEMTのオペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光を用い、電流コラプス現象の原因となっている表面電子捕獲の機構を、高周波動作条件下で解明することにした。
採用したオペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光装置は、電圧印加下で電子状態観察が行える。しかも、放射光X線のパルス性を活用したことで、最大100nmの高い空間分解能と、最大100ピコ秒という高い時間分解能を実現した。また、分光測定と同時に電気特性評価を行うこともできるという。
GaN-HEMTの表面電子捕獲について、オペランド・ナノ時空間分解X線吸収分光を用いた実験により、印加電圧を切った直後のゲート電極近傍だけ測定スペクトルが弱化することが分かった。この現象は、表面Ga原子の共有結合度によって決まるため、[Ga++e-=Ga]といった電気化学反応が、印加電圧を切った直後のゲート電極近傍だけで生じることを意味するという。
今回の実験結果より、表面電子捕獲は電圧印加直後にゲート電極近傍のみで起こり、時間が経過するとゲート電極から離れたところへ電子がホッピングをしていくことが分かった。これによって、DC電圧下と高周波電圧下における電流コラプス現象の違いを説明できるという。なお、従来の電気的手法を用いた観測では、時空間的な挙動を説明することが難しかった。
研究グループは今後、電流コラプス現象を考慮した、デバイスモデリングの研究に取り組む予定である。
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