2000年以降データセンターを支えてきたSFP、QSFPなどのFront Panel Pluggable光トランシーバーから根本的に変革し、次世代の主流になるかもしれないCPOを解説する。
前回に続き、“Beyond 400G”の世界に向けた、光トランシーバーForm Factorの新しい動向を紹介する。具体的には、2000年以降データセンターを支えてきたSFP、QSFPなどのFront Panel Pluggable光トランシーバーから根本的に変革し、次世代の主流になるかもしれないCPOを解説する。
最近注目を集めているのがCo-package Optics(CPO)である。学会発表だけではなく、コロナ禍で増えたオンラインワークショップやセミナーなどでも多く取りあげられている。
2020年3月の「OFC」(The Optical Fiber Communication Conference、毎年米国で開催される世界最大の光通信に関する学会)では、Intelが「世界初」(同社)となるCo-packaged Opticsを搭載した12.8Tスイッチを展示した(図1)。裸のテープファイバーが見える試作品だが、実用化に向けて一歩進めたものと考えられている。MPO光コネクタがPCB上に置いてあり、CPOの課題も浮き出している。この他にもIBMなどと協業したRanovusなどの発表もあり注目された。
図2にCo-packaged Opticsを使用したPCBの概念図を示す。
光トランシーバーに接続する電気配線を1本当たり100Gbit/s以上に高速化しようとすると、伝送損失の少ない基板を使用しなければならない。一般的にそのような基板は高価であるため、必要最小限の面積の基板上にASICと光トランシーバーを搭載・高速接続し、それをPCBに固定する方式が考えられている。IC実装におけるMulti-chip Module (MCM)と同じ概念である。このような構造を実現するのが本稿で扱うCo-packaged Opticsだ。ちなみに電源や低速の制御信号などは、PCBと高速基板の間を電気コネクターで接続する。
しかし、図2のような絵は描けても、まだ、データセンターオペレーター、システムベンダー、ICベンダーや光部品サプライヤーにおいては、実現の指針や開発技術の明確化は始まったばかりである。
例えば一般にCPOが適用されるだろうと認識されている51.2Tスイッチでは、1.6Tの光インタフェースが必要とされている。その1.6Tの標準化は2023年になるとみられているが、それを実現する技術は見えていない。また、後述するCPO Collaborationのガイドラインでは、CPOに適した集積化する高密度光コネクターは現在無いと記述されており、新しいCPOに適したコネクターの開発が要望されている。
ハイパースケールデータセンターが建設され始めて、まだ10年もたっていない。20年は使用されることを前提にした現在のデータセンターの資産は生かさなければいけない。そのため、DCI(Data Center Interconnect、データセンター間接続で80km波長多重光伝送)や、現在最も低コストの数メートルの電気ケーブル接続(DAC:Direct Attach Cable)を含むFront Panel Pluggableで構築された現在のデータセンターをこの資産を生かす方式にしなければならない。このことがCPOの規格に影響してくることになる。
図1の装置では、Intelロゴのある金属ブロックの手前に、銀色の高速電気ケーブルがフロントパネルのコネクターに配線されている。スイッチICのインタフェースの一部を電気ケーブルに振り分けているのだ。この場合、CPOの代わりにリタイマーと呼ばれる中継ICとフロントパネルまで配線する細線同軸ジャンパケーブルを一体化した電気モジュールが使用される。このケースでは、接続本数あるいは密度の限界が問題となると考えている。
電気と光の案分はこれからの課題だ。100%光化を行い、ラックごとにあるTOR(Top of Rack)スイッチを省略し、サーバから直接上位のLeafスイッチに接続する方式なども検討されている。
TORを使用しないシステム構成に限らず、CPO時代には新しいハイパースケールデータセンター構造あるいは新しい情報システムに移行するのかもしれない。1990年ごろのSDH統合通信システム、2000年ごろのIP(Internet Protocol)システム、2010年ごろのハイパースケールデータセンターと新しいシステムの移行がこのように10年ごとに始まるとしたら、今が次世代システムへ移行する始まりの時ではないだろうか。実際、Disaggregation、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、5G(第5世代移動通信)、エッジ、Industrie4.0や自動運転など従来のハイパースケールデータセンターから抜け出すきっかけとなるキーワードが多く発出されている。
また、全てのスケーリング則が成り立たずとも、「ムーアの法則」に沿った集積化は進み、ハイパースケールデータセンターの単位である現在のサッカー場の広さほどのホールが、ビルのフロアで実現できるほど縮小できるかもしれない。現在のAIクラスタが1ラックになる可能性もある。ムーアの法則が継続することによるシステム変革が起こるかもしれないのだ。
光トランシーバー(モジュール)もこれまで上記の10年ごとのエンドユーザー要求に応じて変化を遂げてきた。これからの10年も新しい変化があるのではないかと期待している。CPOはその変化の一環で、きっかけだと捉えたい。以降に51.2Tのデータセンター内大容量スイッチ用の光トランシーバーを中心にCPOを論ずるが、技術はそこにとどまるような技術や標準であってはならないと考える。
さらに、上記10年ごとの変化はトランシーバーの製品だけではなく市場構造も変えてきた。2000年ごろ垂直統合型から水平分業型構造に移行し、2010年以降は従来に比べ桁違いの需要に応えるべくECOシステムが構築された。FP PluggableからCPOに移行するとサプライチェーン、ECOシステム構造が大きく変わり、新しく構築しなければならないといわれている。
まだ定まったようには見えないCPOだが、大きなトレンドとして紹介しておきたい。先に述べたように将来の51.2TスイッチをターゲットとしたCPO Collaborationを紹介し、技術課題や筆者の見解を展開したい。また、Si-photonics(シリコンフォトニクス)の課題と新傾向に関しては稿をあらためて紹介する予定である。
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