中国は依然として内燃機関自動車市場では弱い立場にあるが、中国の新興自動車メーカーにとって、EV市場の障壁は、内燃機関自動車市場と比べてはるかに低いといえるようだ。Juliussen氏は以前に、EE Timesに掲載されている同氏のコラム「Egil’s Eye」の中で、以下のように語っている。
「中国は、BEV(電池式電動自動車)や自動運転車、基礎技術などに関連するIP(Intellectual Property)分野において、リーダー的地位を確立したいと考えている。自動車業界で主導権を握るためには、自動運転車技術とBEVが重要な要素になると確信しているようだ」
Juliussen氏は、「実際のところ、電気自動車は現在も、成長の一途にある新しい市場であるため、ベンダー各社は、絶え間なく技術革新に取り組み、遅れずについて行くことが求められている。また、材料を確保するための参入コストが低いことや、サプライチェーンの複数ポイントにおいて品質管理が異なることに加え、中国の自動車メーカーによるバッテリー調達やEV投入でも競争が加速していることも相まって、さまざまな問題が生じている。このように、中国のEV関連市場は非常に複雑で、小さなミスを発生させる余地が大いにあるため、文字通り“火種”となっているのだ」と述べる。
しかし、「EV市場の世界的リーダーになりたい」という中国の野心を見くびってはならない。
ULのコーポレートフェロー兼エンジニアリングディレクターを務めるKen Boyce氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「中国は現在、自動車の電化を強力に推進し、輸送市場において世界リーダーになるための取り組みに注力しているところだ。さらに、EVの標準規格向けの世界統一基準(GTR:Global Technical Regulations)を、中国独自の国家規則に取り込むべく、短い期間で大きな進捗を遂げている」と述べている。
現在のところ、EV向け標準規格としては、1)電気自動車の安全性(電池の安全性)、2)電気自動車(乗用車)使用時の安全性、3)電気バスの安全性、の3つが存在する。中国自動車業界は、国家を中心とした規則方針に従って活動している。Boyce氏は、「中国では現在、3種類の電気自動車向け安全規格が任意国家規格(GB/T)とされているが、これらは2021年1月に、強制国家規格(GB)に格上げされる予定だ」と説明する。
Boyce氏が率いるULの研究チームは、ホバーボード向けの安全要求規格を極めて迅速に策定したことで広く知られている。ULは、安全に関する深い専門知識に基づいた機敏な対応を実現し、2016年1月にホバーボードの発火について規定した「UL 2272」を発行している。ホバーボードは2015年に、ホリデーシーズンの贈り物として不可欠な商品の一つとされていた。
ホバーボードに必要とされる安全性分析および技術研究のプロセスと、EVの安全規格向けに必要なプロセスには、ほとんど違いがない。Boyce氏は、「ただし、さまざまな業界や国に適用される規則方針を変える場合には、違いが生じる。さらに、EVの安全性を確立するには、かなりの複雑性が生じる。例えば、バッテリー設計プロセスの検証や、バッテリー規格の検証方法の確立(例:実証に基づいたバッテリー性能試験が行われているかどうか)、バッテリーの酷使に関する検討、製造上の品質管理などが挙げられる」と述べる。
多くのバッテリーが中国で製造されているという点や、EVの安全性は包括的な方法で管理しなければならないという点を踏まえ、バッテリーとEV両方の試験を行うことが重要視されるようになってきた。Boyce氏は、「ULは、拡大の一途にあるEV市場をサポートすべく、2019年に中国・常州市において、大規模なバッテリーラボの建設に着工した。そしてこのラボが稼働を開始した2020年10月28日に、WM Motorの電気自動車『EX5』のリコールが発表されたのだ」と述べる。
ULは、「EV市場が引き続き成長を遂げる中、メーカー各社が、バッテリーおよび充電機能の性能や安全性を高めるべく、知識が豊富で信頼性のあるサードパーティーラボを探し求めていることから、今後、EVバッテリーや充電に対する評価、テストの需要が急増していくだろう」と述べている。
中国は、EVとバッテリーの水準を高めて安全科学(Safety Science)を推進していくことを目標に掲げている。
WM Motorは同社のWebサイト上で、自らを「中国国内で新しいエネルギーモビリティソリューションを提供することが可能な、有力企業である」と位置付けている。また、「普及価格帯のBEVを設計、製造し、市場投入を実現していく。WM Motorの自動車は、独自開発した最高クラスのBMSを搭載、優れた走行距離を実現し、業界をリードする自動運転/スマートコネクティビティ機能を提供することができる」とも記載されている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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