情報通信研究機構(NICT)とトヨタ自動車は、無線可視化など無線システムを安定化させる技術を用い、製造現場における「止まらないライン」を実現した。トヨタ自動車の高岡工場と元町工場の2カ所で実証実験を行った。
情報通信研究機構(NICT)とトヨタ自動車は2020年11月、無線可視化など無線システムを安定化させる技術を用い、製造現場における「止まらないライン」を実現したと発表した。トヨタ自動車の高岡工場と元町工場の2カ所で実証実験を行った。
製造現場では、生産性の向上や柔軟な生産システム構築に向けて、無線通信を用いた製造システムの導入が進んでいる。こうした中で、無線機器は一般生活にも広く普及し、作業者が意図せずに持ち込んだ無線機器が、製造ラインの無線システムに悪影響を及ぼす可能性も出てきた。
NICTとトヨタ自動車は共同で、2015年より製造現場における無線の可視化に取り組んできた。この技術を用いると、無線機器を持った作業者が工場内を移動した場合、無線機器の電波が届く範囲を強度と色で表示し、リアルタイムで可視化することができる。もし、事前に登録されていない無線機器が持ち込まれても、その位置を特定して、無線の混雑を抑制することが可能となる。
今回は、この無線可視化技術をトヨタ自動車高岡工場に導入。実際に稼働している組み立てラインで検証した。具体的には、複数の電波計測用センサーから集めたビーコン情報を解析し、管理画面上のフロアマップに描画する。これらの情報からフロア内における電波強度の変化を推定し、電波到達範囲を可視化する。ビーコンのBSSID情報を基に、登録済みの無線機器であるかどうかを判断し、登録外の無線機器であれば、電波強度からその位置を特定することができるという。
もう1つ行った実証実験は、突発的な電波の干渉を回避する異種システム協調制御の機能検証である。NICTは2015年より、異種無線通信の協調制御により無線通信を安定化させる「SRF無線プラットフォーム」の研究を行ってきた。その後、フレキシブルファクトリパートナーアライアンス(FFPA)を設立。2019年9月にはSRF無線プラットフォームの技術仕様書ver.1.0を発行した。
トヨタ自動車の元町工場では、このSRF無線プラットフォームについて実証実験を行った。実験では、実際に製造ラインで利用している周波数帯を試験用通信に用い、その遅延を評価した。具体的には、無線の混雑度に応じ、Field Manager(管理サーバ)で通信経路を適切に切り替えることで遅延を大幅に低減。実験では遅延時間100ミリ秒以下を保証することが可能なことを確認した。この遅延時間を達成できれば、製造システムの8割以上を安定に稼働させることが可能だという。
NICTは今後も、トヨタ自動車の他の工場に無線環境のリアルタイム可視化技術を順次展開し、実証実験を行っていく。SRF無線プラットフォームについても、早期実用化を目指しながら、標準仕様の策定や認証制度の整備を進めていくことにしている。
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