では、なぜ現在、このようなロビー団体が結成されているのかという疑問が浮かんでくる。規模が小さすぎる上に、遅過ぎるのではないだろうか。
Wi-Fi NOWのCEO(最高経営責任者)であるClaus Hetting氏は、まさにそのタイミングに当惑しているという。同氏はEE Timesのインタビューに応じ、「6GHz周波数に関するこのような議論は、ここ数年続いてきた。このため私は、イニシアチブ全体の内容だけでなく、特にそのタイミングに驚かされた。セルラー業界は、自らの正しさを主張したいのであれば、FCCや英国のOfcomのような見識ある規制当局が策定を発表する前に、あらかじめ何らかの対応をすべきではなかったか」と語っている。Ofcomは2020年1月に、6GHz帯の500MHzをWi-Fi 6/6E向けに使用できるようにするための計画を提案している。
また同氏は、「実際のところ私は、この案は既にしばらく前に見捨てられたとばかり思っていた」と付け加えた。
Hetting氏は、この問題がWRC-23で議論されることにも懐疑的だ。「WRC-23の議題は既にほぼ決まっているというのが私の印象だ。そうであれば、この議論(6GHz帯をセルラーでも使うことについての議論)の最終的な結論は、『WRC-27』まで持ち越しになるが、それはあまりに非現実的ではないだろうか」(Hetting氏)
恐らく、推進グループの目的は、重要なアンライセンスバンドの割り当ての決定を遅らせることにあるのではないか、とHetting氏は考えている。もし、その目的が達成されてしまったら、6GHz帯の大部分があと10年近く、その潜在能力を十分に発揮できなくなる可能性がある、とHetting氏は懸念を示す。
Hetting氏は、6GHz帯から最大の価値を引き出すには、Wi-Fiが最適だと強く主張している。
業界団体であるGSMAのスペクトラム部門で責任者を務めるBrett Tarnutzer氏は、反対の見解を持っている。同氏はブログで、技術的な問題とユーザーの利益の問題に焦点を当てて、解説している。
Tarnutzer氏は、ライセンスされた6GHz帯を5Gで使用することは、単に接続する方法のバランスを整えるためだけでなく、将来的にその帯域がどう使われるかを予測するためでもある、と指摘している。「6GHz帯全域をアンライセンスバンドにしている国では、デバイスが普及していく中で、決定を覆すこと(アンライセンスバンドからライセンスが必要な周波数帯に変更するなど)は難しい。それ故、欧州などの一部の国では、5Gの拡大が難しくなっているケースがある」(同氏)
Tarnutzer氏は、特定の地域では、「5G NR-U」(免許不要の5G)やWi-Fiなどの技術のために、帯域の下位部分(5925M〜56425MHz帯)が利用可能になるかもしれないと述べる。ただしその場合、光ファイバーの敷設の範囲によって、Wi-Fiをどこまで使用できるか決まるだろうとも指摘した。
同氏はまた、6GHz帯を最大限に利用する方法を決定する際には、バックホールの問題も考慮しなければならないと強調する。
このように対立する見解を解決するためには、セルラーとWi-Fiをうまく共存させるための最適な方法を見つけることしかないだろう。Hetting氏は、それを実現するための研究が現在も多くの地域で行われていると述べる。
「Wi-Fiサービスは、既存の衛星通信やマイクロ波P2P(Point to Point)無線通信と、同一バンド内で“平和的に”共存できるということが、米国やその他の地域での研究で明らかになっている。ならば、Wi-Fiと5Gにも同じことがいえるのではないか?」(Hetting氏)
一般的に、同じバンド内で複数のユーザーが干渉せずに共存するには、2つの技術が使われる。1つは、屋内通信での電力を低くし、アンライセンスバンドの無線信号が外部に漏れる(これが干渉を引き起こす要因の一つとなる)のを防ぐこと。もう1つは、屋外(標準電力)のWi-Fi信号が深刻な干渉を引き起こす可能性があるコロケーション(co-location)を防ぐため、データベースルックアップ型のスキームを適用することだ。
Hetting氏は、「米国では、FCCが採用した方式が有効だとされている」と述べる。その方式とは、データベースルックアップ方式をバージョンアップしたようなもので、AFC(Automated Frequency Coordination:自動周波数調整)を用いたものだ。Wi-Fiの6GHz帯の干渉問題については、有効だとされている。
Hetting氏は「Wi-Fiと5Gの共存はうまくいく」という結論に達している。Wi-Fi 6やWi-Fi 6Eが普及し始めたときには、5Gとの関わりはさらに高くなるとしている。
【翻訳:田中留美、EE Times Japan、編集:EE Times Japan】
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