前トランプ政権が2018年に、サプライチェーンの回復力向上に向けた取り組みに着手している他、バイデン政権も環境政策を進めているなど、強い関心が維持されているようだ。また米国国防総省は、石油に関して「戦略石油備蓄(SPR:Strategic Petroleum Reserve)」を実施した時と同様に、レアアース元素の政府備蓄を行っている。米国は現在、すぐに利用可能な状態の鉱石を約270万トン確保しているという。カリフォルニア州の鉱山では、バストネサイト鉱石とモナザイト濃縮物を年間3万8000トン生産することが可能だとしているが、かつてこれらは全て、中国に輸出して処理されていた。
現在も、米国内で自給自足が可能なサプライチェーンを構築することは非常に困難な状況にある。抽出段階では、酸浸出やベーキング、溶剤の使用などによって有毒廃棄物が発生するため、それを処理する必要がある。これまで、中国に輸出してその処理を行っていたということは、大量の汚染物質も輸出していたことになる。米国は、カリフォルニア州やアラスカ州、ネブラスカ州、ワイオミング州などさまざまな州の確認埋蔵量を管理しているが、その実行可能性を実現する上で、現在も処理やコストなどが重要な影響を及ぼしている。
レアアース元素は現在、かなり限られた量しか再利用されていないが、磁石や蛍光灯、電池などの資源からも再利用可能である他、従来とは異なる資源を探すことも可能だ。例えば、米国オークリッジ国立研究所は、古くなったハードドライブの磁石からネオジムを抽出可能であることを示すデモ実演を行っている。
また、石炭から元素を抽出したり、発電所の石炭灰や炭鉱の廃棄物から副生成物として元素を抽出することなども可能だ。再利用や代替資源によって、いつの日か供給安全性を確立できるようになるとみられるが、現在実行されている量では、まだ大きな影響を及ぼすまでには至っていない。
中国が、レアアースを兵器にするという脅威を振りかざすことによって、政治的緊張が高まったため、米国は常に、代替となるパートナーシップや調達源、処理関連のオプションなどを模索してきた。しかし、このようなサイクルは往々にして、脅威が去って中国からの輸入価格が低下すると、通常のサプライチェーンに戻る場合が多い。
米国において、レアアースの国内供給が持続可能になるのは、10〜15年先のことになるだろう。やはり中国の支援なくしては、米国が国内供給の自立化を推進するかどうかは判断が難しいところである。専門家たちは、中国との緊張関係はレアアースの確保に関連した大きな懸念材料ではないと考えているようだが、具体的にどうなるかは、中国の輸出の将来と、米国の代替品調達の決意にかかっている。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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