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迷走する米中対立、“落とし所なし”の泥沼化OMDIAアナリスト座談会(1/5 ページ)

2020年も7カ月が過ぎたが、米中対立は泥沼化している。英調査会社OMDIAのアナリストたちに、米中対立の今と、コロナによるエレクトロニクス業界への影響について語ってもらった。

» 2020年08月17日 11時30分 公開
[村尾麻悠子EE Times Japan]
画像はイメージです

 2018年ごろから始まった米中貿易摩擦は激化の一途をたどっている。一度は合意に達し、2020年初頭までは小康状態を保っていたが、新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大し始めたころから再び雲行きが怪しくなり、2020年5月、Huaweiに対する輸出管理強化策の発表で完全に潮目が変わった。

 2020年も7カ月が過ぎたが、米中対立は泥沼化している。英調査会社OMDIAのアナリストたちに、米中対立の今と、コロナによるエレクトロニクス業界への影響について語ってもらった。

【座談会参加者】

  • 南川明氏(シニアコンサルティングディレクター):半導体業界を中心にエレクトロニクス産業全般を担当
  • 杉山和弘氏(コンサルティングダイレクター):半導体/エレクトロニクス産業全般の市場分析/ビジネス分析を担当
  • 前納秀樹氏(コンサルティングアソシエイツディレクター):システムLSIを中心にIoT、クラウド、メディア関連エレクトロニクス産業の市場分析/ビジネス分析を担当
  • 李根秀氏(プリンシパルアナリスト):機器分解によるデバイスのコスト調査などを担当
  • 大庭光恵氏(シニアアナリスト):主に情報通信分野の市場分析/ビジネス分析を担当
  • 福良聡太氏(アナリスト):エレクトロニクス産業全般の市場分析/ビジネス分析を担当


米中対立は“次の段階”に

――EE Times Japan(以下、EETJ) 2020年5月から、米中対立が一段と厳しい状況になっています。ここまでの動きを俯瞰していただけますか。

南川明氏(2019年12月に撮影、以下同)

南川明氏 やはり2020年5月、6月あたりからモードが変わったと感じています。特にこの1年間、トランプ政権はHuaweiに対してかなり厳しく対応してきましたが、その割にHuaweiの勢いが衰えていない。それも含め、モードが変わった原因として、2つの可能性があると考えています。

 1つは、米国が、このままでは、らちがあかないので次の段階に移ろうとしていること。今後考えられるシナリオとしては、さらに厳しい規制をかけることがまず挙げられます。COCOM(ココム:対共産圏輸出統制委員会)のような昔の規制の再現を狙っているのではないかと思います。そうなると米中だけでなく、他国も巻き込んで対中国の包囲網を作ることになります。

 2つ目は、金融政策を厳しくするのではないかと。COCOMのようなものが発動するとなると、現在のようにHuawei関連の狙い撃ちということではなく、ターゲットがもっと広範になっていきます。包括的に規制する仕組みを作る可能性があるのではないでしょうか。

 米中対立の発端は、米国が、中国の軍事力の強化を脅威と見なし、それを抑え込むことでしたので、その根本的な目的は変わらないでしょう。ただ、Huaweiに狙いを定めても思ったようなダメージを与えられないどころか、特に半導体産業に関しては加速している気配すら感じ取れる。米国としては次の段階に行かざるを得ないのでしょう。

5Gの特許が切り札に?

EETJ 確かにHuaweiの売上高を見ても、2019年は8588億人民元(約13兆円)で前年比19.1%の増加となっています。相当なダメージを食らっているようには見えません。Huaweiの5G(第5世代移動通信)事業は、どのような状況なのでしょうか。

大庭光恵氏

大庭光恵氏 米国や英国、日本のようにHuaweiの5G基地局を排除する方針の国もあれば、ドイツのように排除しない方針の国もあり、反中国の陣営とそうでない陣営とに分かれてきています。5GやBeyond 5G(5G以降)の分野では、ネットワーク仮想化やOpen RAN(オープン無線アクセスネットワークの議論が進んでいますが、その標準化についても2つの陣営に分かれ始めていて、米中対立の影響が及んでいます。例えば、「O-RAN Alliance」には中国のオペレーターが含まれていますが、「Open RAN Policy Coaliation」には中国メーカーがいない、といった具合です。ただ、現時点では、日本や欧州の通信機器ベンダーはどちらに偏ることもしていない、という印象です。

 5G基地局のシェアについては、中国の5G市場が成長しているということもあり、実はHuaweiが大きく伸びています。EricssonとSamsung Electronicsも伸びてはいますが、シェアとしてはHuaweiが盛り返しています。

杉山和弘氏 5Gは中国抜きでは語れないですよね。2020年の通信インフラ投資も中国だけで約230兆円に上り、しかもメインは5Gへの投資です。中国では、2025年までに5G基地局を500万基、設置する計画もあります。5G市場のほとんどを中国が占めているわけです。一方の米国は周波数割り当ての段階でモメていて、なかなか5G展開が進んでいません。

 ただ、一番の問題は特許です。Huaweiは、5G関連の特許で3000件くらい出願していて、5G関連の特許のシェアは15%くらいで断トツだともいわれています。Huaweiとしては、特許の使用を米中対立の解決の切り札として使う手段も考えられると思います。5Gへの投資も桁違いですからね。

南川氏 中国は、よくそんなに資金力を維持できるね(笑)

杉山氏 IMF(国際通貨基金)が2020年6月に、中国のGDPは2020年に1%プラスになると発表しました。他の国が軒並みマイナス成長で、世界全体としてもマイナスにもかかわらずですよ。これは、すごいことだと思います。中国の方を取材して聞いたのですが、2020年第1四半期ではコロナの影響でGDPが−6.7%くらいだったのに、第2四半期でもう3.7%プラスになったそうです。2020年通年で+1%まで持っていくということは、これからさらに投資が続くということです。

 結局、コロナからいち早く立ち直っているのは中国ではないかと。そして他国がコロナ禍から抜け出せずにいるところで、領土争いや「香港国家安全維持法」などでもかなり強気の姿勢を見せていますよね。そうなると、米国としてはもう、ハイテク戦争くらいしか対抗の手段が残っていないのではないでしょうか。

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