ちゃぶ台をひっくり返すようで心苦しいですが、現在実用化されているワクチンの有効性を根底から覆す報告もあります。最近話題になりつつある「E484K」変異を持つウイルスの特性についての報告*)です。
*)いわゆる南アフリカ型、ブラジル型はこの変異を含んでいます。
「E484K」とは、「ウイルスを構成するタンパク質のアミノ酸配列の484番目のE(グルタミン酸)がK(リシン)に置き換わった」という意味です。
ぶっちゃけて言えば、「ファイザー社やアストラゼネカ社が作ってくれたワクチンのターゲットである、スパイクタンパク質の形が変わっちゃったよ」ということです。
―― これ、想像を絶する大問題です。
いうなれば「対テロ特殊殲滅(せんめつ)部隊のブートキャンプに利用したハリボテテロリストと、実際のテロリストの姿形がずれてしまった」ということです。
ワクチンを打つことでせっかく育てた対テロリスト殲滅部隊が、「あれ?? 敵の姿が変わっちゃったぞ? ほんとにコイツは敵なのか??」とテロリストを認識できなくなって右往左往してしまうのです。
現時点で分かっている、変異株に関する怖い話を並べてみます。
最後の「集団免疫後に変異ウイルスが再流行」はインパクトの大きな報告ですが、まだ「変異株」が原因である、との証拠は出てきているわけではありません。楽観的に考えれば、「集団免疫が完成していなかった」「流行から9カ月経過して抗体の力が弱くなった」という可能性もあります。
最も悲観的(絶望的)な考えは、言うまでもありませんが ―― 今後「これまでのワクチンを全て無効にしてしまう、COVID-19ウイルスの変異株が、これから定期的に出現する」という未来です。
さて、上記で「変異だ、変異だ、大変だ」と書き連ねてきましたが、変異とは具体的に一体何なのでしょう?
SARS-CoV-2は「RNA(=4種のリボ核酸(RNA)が連なった物)」が「本体(=遺伝情報の媒体そのもの)」です。変異とは、このRNA配列にうっかりコピーミスが発生することを指します。具体的には、今まであったリボ核酸が欠ける「欠失」、今まで無かったリボ核酸が入り込む「挿入」、配列中のリボ核酸が他のリボ核酸に入れ替わる「置換」の3つの様式があります。
SARS-CoV-2自身がコピーミスをするのだから、普通なら脅威でもなんでもない、活性化できない、無害なゴミ配列のウイルスになる ―― 「“バンザイ! そして、“ザマアミロ!”」となって片付けられる ―― 実際、コピーミスされたほとんどのウイルスはそうなる運命にあります。
しかし、全人類の人体を「繁殖場」とするSARS-CoV-2ウイルスにとっては、気の遠くなるような回数*)のコピーミスの果てに ―― 彼らウイルスにとっては「幸運」な、そして、私たち人類にとっては「最悪」な ――感染性を保持し、次世代に生き残るウイルスが登場します。これが変異株です。
*)「37兆個の一人、次に会えるのはいつかな〜♪」という歌(TVアニメ「はたらく細胞」)からも分かるように、人間一人に37兆個の細胞があり、SARS-CoV-2は自分自身をコピーしながら、これらの細胞を攻撃し続けているのですから、生き残るコピーミス(変異株)が発生するのは当然と言えます(江端)
変異は決して珍しいことではなく、現在までに系統樹にして大きく10系統、末端までに45分岐以上に枝分かれしており、まとめページによれば6000箇所以上数万種に及ぶ変異が報告されています(参考)。
SARS-CoV-2の変異は、「置換」の様式を取ることが多いです。3つのRNAが1つのアミノ酸を指定するため、欠失や挿入が起こると、アミノ酸指定のフレームが丸ごとずれてしまってタンパク質の構造がめちゃくちゃになってしまうからです。
こうして、置換が起こることで「タンパク質を構成しているアミノ酸が1つ別の物に入れ替わり」ます。このようにアトランダムにアミノ酸が入れ替わることにより、SARS-CoV-2は変化≒進化していくのです。
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