東京大学らの研究グループは、ナノメートル級の凹凸を設けた「ナノすりガラス」を開発した。ナノすりガラスの表面は、150℃という高温でも長時間にわたって超親水性を維持することができ、有機半導体でも良質な単結晶膜を大きな面積で製造することが可能だという。
東京大学と産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構の共同研究グループは2021年3月、ナノメートル級の凹凸を設けた「ナノすりガラス」を開発したと発表した。ナノすりガラスの表面は、150℃という高温でも長時間にわたって超親水性を維持することができ、有機半導体でも良質な単結晶膜を大きな面積で製造することが可能だという。
有機半導体のインクを印刷して、質の良い単結晶膜を作製するためには、親水性が高い表面を持つ基板を用いる必要がある。このため従来は、表面に親水性コーティングやUV光照射、プラズマ処理などを行っていたが、汚損により親水性が低下するという課題があった。
そこで研究グループは、「物質表面のわずかな凹凸」と「表面のぬれ性」に着目した。一般的なガラスの表面を、炭酸水素ナトリウム水溶液で処理することにより、1nm程度のわずかな凹凸を形成した。
「ナノすりガラス」と呼ぶこのガラスは、水の接触角が3度以下になり、表面で水がぬれ広がることが分かった。その上、150℃という高温環境でも、この状態が約1日維持されるなど、熱による親水性の劣化を抑えられることも分かった。
研究グループは、開発したナノすりガラス表面に面積が大きい単結晶薄膜を作製し、検証を行った。この結果、インクを用いた印刷プロセスでも、1cm角以上の面積でn型有機半導体膜を製造することができた。これは、従来方法に比べ約50倍という大きな面積になるという。
超親水性基板上に作製した半導体膜は、研究グループがこれまで開発してきた半導体単結晶膜の転写法を用いると、さまざまな表面に貼り付けて利用することができるという。この技術を用いてデバイスを作製し、半導体膜の電気的特性を評価した。この結果、作製した薄膜が優れた電子輸送性能を示すことが分かった。
今回の成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、産業技術総合研究所産総研・東大先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ、物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)らの研究グループによるものである。
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