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東京大、高い伝導特性を有する導電性高分子を開発酸化反応で高分子の隙間を埋める

東京大学らの研究グループは、従来に比べ高い結晶性と伝導特性を有する導電性高分子を開発した。これまでより酸化力が強いラジカル塩ドーパントを独自開発し、これを高分子半導体に作用させることで実現した。

» 2021年04月23日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

酸化力が強いラジカル塩ドーパントを独自に開発

 東京大学らの研究グループは2021年4月、従来に比べ高い結晶性と伝導特性を有する導電性高分子を開発したと発表した。これまでより酸化力が強いラジカル塩ドーパントを独自開発し、これを高分子半導体に作用させることで実現した。

 高分子半導体は、印刷技術を用いて成膜が可能なことから、次世代のエレクトロニクス材料として注目されている。ただ、高分子半導体を導電性材料として用いるには、高い伝導特性を実現する必要があるため、高分子の結晶性を高める研究などが行われてきた。

 電気伝導特性を向上させるため、通常は高分子半導体と酸化還元反応を生じるドーパント分子を、高分子膜に導入する手法が用いられている。ところがこの方法だと、ドーパント分子はアニオン(陰イオン)として高分子膜内部に残るが、ランダムな配置となる。これによって高分子半導体の結晶性が損なわれ、電気伝導特性が抑えられている可能性もあるという。

 そこで研究グループは、従来に比べて酸化力が強いラジカル塩ドーパントを開発した。この溶液に高分子半導体の薄膜を浸してドーピングを行ったところ、高分子の繰り返し単位当たり1個のドーパント分子が導入される極めて高いドーピング量を実現できた。さらに、X線回折像を測定したところ、強度パターンの消失も観測されたという。

 強度パターンをシミュレーションした結果、高分子半導体とドーパント分子が1対1の共結晶構造を形成していることが分かり、高分子の結晶中に存在するドーパント分子の位置を0.5nmレベルの精度で決めることができたという。

上図は結晶性高分子半導体PBTTTの製膜とドーピング操作の模式図、下図はX線回折像の測定とシミュレーションの結果 (クリックで拡大) 出典:東京大学など

 通常の高分子半導体の結晶性構造には、ナノメートル級の空隙が周期的に存在する。これに対し、今回作製した共結晶構造では、隙間にドーパント分子が高い密度で充填(じゅうてん)されていることが分かった。酸化力の強いラジカル塩ドーパントを用いたことにより、「均質な密度と配置でドーパント分子が配列した」と分析している。

 今回作製した薄膜の大部分は、高い配向性を持った共結晶構造であることが分かった。ドーパント分子種を最適化することで、大気安定性を向上させることもできたという。

 今回の研究は、東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)、科学技術振興機構(JST)さきがけ、産業技術総合研究所(産総研)産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリが共同で行った。

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