ここで、各種ASICには季節性の変動要因が含まれると考え、2019年〜2021年Q1までの出荷個数について、前年同期比をグラフにしてみた(図8)。前年同期比が「1」以上なら拡大、「1」以下なら縮小を意味する。
この図8から、コロナの巣ごもり需要でConsumerが急増し、データセンタ投資が急拡大したのは、2020年Q4以降であることが分かる。特に、Consumerの成長が著しい。
次に、Communicationについては、2019年は低調だったことが分かる。これは、世界のスマートフォンの出荷台数が2016年に14.73億台でピークアウトし(図9)、2017年以降は必然的に前年同期比が「1」以下にならざるを得ない状態だったからだ。
ところが、2020年Q2〜Q4は「1」を超えている。Q2〜Q3は、米国の制裁を受けたHuaweiの駆け込み需要であると思われる。また、同年Q4には、Huaweiの穴をApple、Samsung、Xiaomi、OPPO、vivoが奪おうとして増産したと推察される。
米国の制裁を受けた結果、2015年以降、1〜3位につけていたHuaweiの出荷台数は、2021年Q1に6位の3220万台に低下した(図10)。一方、1位Samsungが7530万台、2位Appleが5520万台(2020年Q4は1位の9010万台)、3位Xiaomiが4860万台、4位OPPOが3750万台、5位vivoが3490万台と増えた。特に、中国のXiaomi、OPPO、vivoは、Huaweiを抜き去って、それぞれ大きく躍進したと言えよう。
再度図8に戻って、Automotiveの前年同期比を見てみよう。コロナ禍で、Consumer、Computer、Communicationの全てが「1」を超えているのに対して、Automotiveだけが「1」を下回っている。クルマが減産となり、ジャスト・イン・タイムの生産方式を適用した結果がこれだ。
TSMCなどのファウンドリーが製造するAutomotiveのボリュームゾーンの40〜28nmは、Consumerの中の各種電機製品用にキャパシティーを奪われた。また、5G通信でネットにつながる自動運転車用の7〜5nmの最先端ロジックは、Communication、ComputerおよびConsumerの中の高級ゲーム機用にキャパシティーを奪われたと推測している。
2021年Q1に「1」を超えたのは、日米独の各国政府が台湾政府を通じてTSMCなどに車載半導体の増産要請をした効果であろう。しかし、これはTSMCがスクランブル的に対応したから可能になったことであろう。従って、TSMCが中国の南京工場に約3100億円を投じて、新たな車載半導体の生産ラインを稼働させる2023年まで、車載半導体の供給不足は続くと思われる。
世界的な半導体の供給不足は、コロナ騒動がトリガーとなり、これに米国によるHuaweiやSMICへの制裁が関係し、クルマメーカーがジャスト・イン・タイムの生産方式に従って車載半導体を調達していることなどが複雑に絡まりあって起きた現象であると結論した。
また、現在起きている半導体供給不足は、メモリ価格の高騰に起因するメモリバブルとは本質的に異なる現象であり、各種半導体の出荷個数が増大していることから、本当に「作っても作っても足りない」事態であることを明らかにした。
さらに、ロジックの各種ASICの分析から、コロナ禍において、Consumer、Communication、Computerの全てが出荷個数を増大させているのに対して、ジャスト・イン・タイムの生産方式を採用しているAutomotiveだけが出荷個数を減少させている。2021年Q1には、政治的な圧力によってAutomotiveの出荷個数が増えてはいるが、一時的な「ばんそうこう張り」のようなものであり、根本的な解決策にはなっていないことを指摘した。
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