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“半導体狂騒曲”、これはバブルなのか? 投資合戦が行き着く先は?湯之上隆のナノフォーカス(38)(5/5 ページ)

» 2021年05月20日 11時30分 公開
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今後の展望

 各種の半導体供給不足はいつまで続くのだろうか?

 「足りない」という現象は、需要に対して供給が十分でないために起きることである。従って、供給が需要に追い付くまでは、不足することになる(当たり前だが)。

 TSMCが今後3年間で1000億米ドルを投資することが4月1日に報道されたが(関連記事:「TSMCが今後3年間で1000億ドル投資へ、生産能力強化」)、その後、2021年だけで280億米ドルから300億米ドルへ増額することが明らかになった(関連記事:「TSMCが2021年の設備投資を300億ドルに再度引き上げ」)。

 米Intelは3月23日、200億米ドルを投じて、アリゾナ州に2棟の新工場を建設すると発表した。1棟はCPU用、もう1棟はファンドリー用であるという。加えて、35億米ドルを投じて、ニューメキシコ州の製造拠点を増強すると発表した(日経新聞5月5日)。3次元積層の後工程用の投資と思われる。

 Samsungは5月13日、ファンドリー分野で、2030年までに171兆ウォン(約16兆5000億円)を投資すると発表した。ことし(2021年)だけで2兆円を上回る見通しであるという(日経新聞5月13日)。

 このような巨額な投資額にめまいがする思いだ。しかし問題は、巨額投資をしても、すぐに半導体は出荷できないということにある。まず、工場を建設し、膨大な製造装置を搬入し、ウエハーを流して製造プロセスを確立しなければならない。

 その際、冒頭で述べたように、現在ウエハーなどの材料が20〜52週(最長1年)も待たないと入手できないという問題がある。その前に、これだけの巨額投資が行われる場合、前工程だけで10種類ほどある製造装置は奪い合いになるだろう。また、その製造装置は、それぞれ、数千点以上の部品から構成されており、部品の供給律速で製造装置が組み立てられないということも想定される。これは、2016〜2018年のメモリバブルの時にも、実際に起きた事態である。

恐怖の瞬間がやってくる?

 客観的に考えてみて、少なくとも、半導体の供給不足は2023年頃まで続くのではないだろうか。そして、筆者は、その時期に、ある一つの大きな懸念を持っている。

 この半導体供給不足は、過去のメモリバブルとは本質的に異なる現象だと論じた。だからバブルではないと思うが、TSMC、Samsung、Intelなどが巨額投資を行い、装置や材料などを奪い合いながら、製造キャパシティーを増大させていくだろう。

 すると、やがて供給が需要に追い付き、追い越す瞬間、つまり供給不足が解消するときが訪れることになる。そこで何が起きるだろうか?

 それは、半導体価格の大暴落に他ならない。

 われわれは、そのような悪夢を何度も目にしてきた(図11)。2001年にITバブルが崩壊した(筆者は2002年に日立を退職する羽目に陥った)。2008年にはリーマン・ショックが起きた(筆者は2009年にベンチャー立ち上げを断念し無職無給になった)。そして、2018年にはメモリバブルが崩壊した(この時は幸いにも筆者は無傷で済んだ)。

図11:世界半導体市場の推移(2021年以降は予測値) 出典:WSTSのデータを基に筆者作成(クリックで拡大)

 さて、供給が需要に追い付くと予想される2023年に、何が起きるだろうか? 人間は、今日の延長線上に明日があると思い込んでしまう。しかし、そうではないことを、歴史が証明している。業界関係者は、今から心の準備をしていた方が良いかもしれない。

(次回に続く)

⇒連載「湯之上隆のナノフォーカス」記事一覧


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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。


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