理化学研究所(理研)は、シリコン量子ドットデバイスでは初めて、3量子ビットもつれ状態を生成することに成功した。大規模量子コンピュータの開発に弾みをつける。
理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループの武田健太研究員と野入亮人基礎科学特別研究員、樽茶清悟グループディレクターらの研究チームは2021年6月、シリコン量子ドットデバイスでは初めて、3量子ビットもつれ状態を生成することに成功したと発表した。大規模量子コンピュータの開発に弾みをつける。
シリコン量子ドット中の電子スピンを用いたシリコンスピン量子コンピュータは、大規模量子コンピュータの実装に適しているといわれている。現行の集積回路技術と相性が良く、比較的高温での動作が可能なためだ。
量子コンピュータの動作には、「量子もつれ」と呼ばれる複数量子ビット間の相関の制御が重要となる。これまで2量子ビット間の量子もつれは実証されてきたが、3量子ビット以上の量子もつれ生成と検証は難しかったという。
研究チームは今回、シリコン3重量子ドット中の電子スピンを用いて、3スピン状態の完全な制御および、精度が高い3スピンもつれ状態「Greenberger-Horne-Zeilinger(GHZ)」を実現した。
量子ドット構造は、ひずみシリコン/シリコンゲルマニウムの量子井戸基板上に微細加工を行う一般的な方法で作製した。作製した3層のアルミニウム微細ゲート電極に正電圧を加えると、量子井戸中に電子を電界誘起し、高い自由度で量子ドットが形成される。実験では、「P1」「P2」「P3」というゲート電極の直下に形成された3つの量子ドットに、電子を1個ずつ閉じ込めて、これらの電子スピンを操作した。
スピン量子ビットの1スピン操作である電子スピン共鳴は、スピンのゼーマンエネルギーに共鳴した実効的な交流磁場を加えて発生させた。電子スピンのラビ振動を観測したところ、理想的な正弦波に近い振動となることが分かった。また、ランダム化ベンチマーキング法でスピン操作の精度を測定した。この結果、平均99.5%という極めて高い精度(忠実度)で操作できていることが判明した。
スピン状態を完全に制御するためには、1スピン操作に加え、隣接する2スピン間のもつれ操作が必要となる。今回は、スピン間の交換結合(J)を電気的に制御することでこれを実現した。Jは、量子ドット間のトンネル障壁の大きさに依存(Jは障壁が低いと大きく、高いほど小さい)するため、ゲート電圧によって制御することができる。特に、障壁ゲート電圧を高速でパルス制御し、数十ナノ秒という短い時間でJを行うと、2量子ビット操作の1つである制御位相操作を実装できる。今回用いた試料は、Jを0.3〜30MHzの範囲で制御可能だという。
研究チームは最後に、1スピン操作と制御位相操作を組み合わせて、3量子ビットもつれ状態を生成した。また、量子状態トモグラフィを用いて、量子状態の密度行列(ρexpt)を測定した。実験で得られた密度行列と、理想的な3量子ビット最大もつれ状態の密度行列(ρGHZ)を比較したところ、88%という高い状態忠実度が得られた。しかも、生成した状態は2量子ビット以下のもつれ状態やW状態(=3量子ビット以上からなる典型的な量子もつれ状態の一つ)に分解できない、真のGHZ型量子もつれであることが分かったという。
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