産業技術総合研究所(産総研)は、空気中の湿度変化を利用して発電する「湿度変動電池」を開発した。溶液からなる素子のため内部抵抗が極めて小さく、mAレベルの電流を連続して取り出すことに成功した。
産業技術総合研究所(産総研)センシングシステム研究センター兼人間拡張研究センターの駒﨑友亮研究員らは2021年6月、空気中の湿度変化を利用して発電する「湿度変動電池」を開発したと発表した。
新しい原理で動作する湿度変動電池は、「潮解性材料」と「塩分濃度差発電」の技術を組み合わせた。溶液からなる素子のため内部抵抗が極めて小さく、ミリアンペアレベルの電流を連続して取り出せるのが大きな特長である。昼夜の湿度差を利用して発電できるため、IoT機器用自立電源などの用途に期待できるという。
開発した湿度変動電池は、2つの槽で構成されている。大気に開放された「開放槽」と密閉された「閉鎖槽」である。これらの槽には、水と潮解性を有するリチウム塩からなる電解液が封入されている。
この電池の動作原理はこうだ。電池が低湿度環境にさらされると、開放槽から水分が蒸発して濃度は上昇する。これに対し、閉鎖槽は密閉されており濃度が変化することはない。これによって開放槽と閉鎖槽間で濃度差が生じ、電極間に電圧が発生する。一方、高湿度環境にさらされると、開放槽内の水溶液が空気中の水分を吸収して濃度が減少する。このため低湿度環境とは逆向きの濃度差が生じ、逆向きの電圧が発生するという。
空気中の湿度は、昼夜の温度変化などにより1日の間に数十パーセントも変動するといわれている。これを利用すると、開発した電池を空気中に置いておくだけで、理論的には半永久的に発電することが可能となる。
研究チームは恒温恒湿槽を用い、試作した湿度変動電池の発電状況を調べた。槽内の湿度が2時間ごとに、30%と90%になるよう制御した。この結果、湿度30%の状況では22〜25mV程度、湿度90%になると−17mV程度の電圧が、それぞれ発生した。最大電圧時に負荷を接続すると、最大30μW(3.3μW/cm2)の出力が得られたという。また、短絡電流は5mA(0.56mA/cm2)で、1mA以上の電流を1時間以上継続して出力できることを確認した。
さらに、省電力機器の動作デモも行った。10μW以下で駆動が可能な低消費電力のモーターを作製し、湿度変動電池で駆動させた。実験では、湿度を20〜30%に保った密閉容器に湿度変動電池を入れ、電圧が一定の値に達したところでモーターと接続。そうすると、蓄電したエネルギーで2時間半以上もモーターを回転させることができたという。
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