図5は、WF-1000XM4に搭載されるMEMSモーションセンサーである。スマートフォンなど多くの機器に採用され、性能に定評があるBOSCH製センサーが搭載されている。こちらも内部は2シリコン構成だ。
1つのパッケージの中に、1つのシリコンだけでなく、シリコンを2つ、3つ搭載することで体積を最小化できる。モバイル機器では1パッケージ、1シリコンはあまり使われておらず、複数のシリコンを1パッケージに収めることで体積を減らしたり、電力(距離が短くなるので充放電電力が減る)を改善したりしている。WF-1000XM4には片側のイヤフォンに機能チップとして7チップが搭載されているが、そのうち5チップは1パッケージに2シリコンが入っている。平均すると1.71シリコン/パッケージ(12シリコン/7パッケージ)だ。Appleなどはさらに進んでおり、「AirPods Pro」では1パッケージに5シリコンが搭載されたチップも採用されている。
図6は、2019年モデルのWF-1000XM3と2021年モデルのWF-1000XM4のプロセッサ部を比較した様子である。WF-1000XM3では3パッケージで構成されていた機能が、機能アップや改良を行いつつ1パッケージ化されている。ノイズキャンセル用のソニーチップ(左下)が新チップに取り込まれているわけだ(ソニーとの共同開発だと思われる)。
3パッケージであったものが1パッケージになったことがイヤフォン本体の小型化に大きく寄与したことは間違いない。今後多くの機器(IoT分野や車載分野)でも、パッケージ点数を減らして、パッケージ内部でシステムを構成し、体積削減、電力削減などが劇的に進んでいくものと思われる。またモールドパッケージの中に閉じ込めることで、防じん対策や信頼性向上などにも効果が大きい。
一方で、回路が集中することによる発熱が集中するなどの懸念もないわけではないが、電源制御や微細化技術の適応による電源電圧の低減、放熱材の利用などの“合わせ技”によって、発熱も抑え込みつつ集中化を進めることも可能だ。実際、最新スマートフォンの発熱対策などはこうした多くの“合わせ技”で成されており、今後さまざまな分野にも応用されていくものと思われる。
図7に、WF-1000XM4に搭載されているチップの接続関係を示す。メモリはビットセルまでカウントすると数千万トランジスタで構成される。またプロセッサにはメガビット級の大容量SRAMが搭載される。イヤフォン片側にはトランジスタ1億個級の機能が搭載されている。1000円ワイヤレスイヤフォンとは全くの別世界である。
ワイヤレスイヤフォンは今や、ワイヤードに戻れない必須の日常アイテムである。本稿で取り上げたソニーやAppleのワイヤレスイヤフォンは、決して安くはない製品だ。だが、価格に見合う大きな感動を与えてくれる。今後の進化、変化を期待したい。
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