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光照射でフレキシブル有機電子回路の特性を制御同一の構造や有機材料で可能に

大阪大学らの研究チームは、有機トランジスタの絶縁層に、紫外光を照射すると分子構造が変化する高分子材料を用いることで、集積回路の電気特性を制御できる技術を開発した。応用分野に適したフレキシブル有機電子回路を、これまでに比べ容易に実現することが可能になる。

» 2021年09月28日 09時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

有機トランジスタのしきい値電圧を−1.5〜0.2Vで任意に制御

 大阪大学とオーストリアJoanneum研究所の研究チームは2021年9月、有機トランジスタの絶縁層に、紫外光を照射すると分子構造が変化する高分子材料を用いることで、集積回路の電気特性を制御できる技術を開発したと発表した。応用分野に適したフレキシブル有機電子回路を、これまでに比べ容易に実現することが可能になる。

 フレキシブル電子デバイスは、ウェアラブル生体計測を始め、さまざまな用途でその応用が期待されている。ただ、生体信号計測を実現するセンサーデバイスなどでは、スイッチング回路や信号処理回路など、複数の回路ブロックを集積する。このため、高い性能を実現するには、デバイスの積層構造が複雑となったり、複数の有機材料を使いこなしたりする必要があったという。

 研究チームは今回、有機トランジスタの絶縁層として、紫外光を照射すると分子構造が変化する高分子材料を用いた。Joanneum研究所で開発された高分子材料「PNDPE」である。これによって、同一の構造や材料を用いた有機電子回路でも、部分的に光照射を行うだけで、電気特性を自在に制御することが可能になった。

光照射による有機トランジスタ回路特性の精密制御デバイス写真とプロセスイメージ図 出所:大阪大学他

 実験結果によれば、照射光量を変化させていくと、有機トランジスタのしきい値電圧を−1.5〜0.2Vの範囲で任意に制御できたという。特性制御における二次元空間分解能にも優れていて、約18μmの精度で分子構造を変化させることが可能なことを確認した。

左図は照射光量としきい値電圧の関係、右図は分子構造変化の二次元空間分布を示す顕微FTIRイメージング測定結果 出所:大阪大学他

 今回の研究成果を活用すれば、同一の構造や材料を用いた有機トランジスタ集積回路でも、任意の光照射領域にあるトランジスタのみ特性を変えることが可能になる。今回の実験では、有機トランジスタを用いてインバーター回路やリングオシレーター回路を試作し、光照射で回路特性を自在に調整できることを確認した。

 なお、光照射の手法を工夫すれば、空間分解能を高めることも可能とみて、集積度をさらに高めた電子回路の製造にも適用できる技術だという。

 今回の研究成果は、大阪大学産業科学研究所の植村隆文特任准教授(JST創発的研究支援事業・創発研究者、産業技術総合研究所特定フェロー兼任)や大学院生の田口剛輝氏(工学研究科博士後期課程、産業技術総合研究所リサーチアシスタント)、関谷毅教授らの研究チームと、オーストリアJoanneum研究所のAndreas Petritz博士、Barbara Stadlober主任らの研究チームによるものである。

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