東京大学や産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構による共同研究グループは、有機半導体における「絶縁体−金属転移」を実験的に観測することに初めて成功した。
東京大学や産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構による共同研究グループは2021年9月、有機半導体における「絶縁体−金属転移」を実験的に観測することに初めて成功したと発表した。
絶縁体−金属転移とは、不純物のない絶縁性の固体物質に、電子や正孔を高い密度で注入すると、金属に変化する現象である。ただ、有機半導体では、欠陥のない高純度の有機半導体薄膜を製造することや、高密度に電荷を注入することが極めて難しく、実験的に実証されていないという。
研究グループはこれまで、厚みが数分子層という有機半導体単結晶薄膜を、印刷プロセスで作製するための技術を開発してきた。これで得られた有機半導体C8-DNBDT薄膜の表面には欠陥がなく、薄膜中の分子層数も精密に制御されているという。
今回は、この技術を用いて電気二重層トランジスタ構造(EDLT)を作製した。一般的な電界効果トランジスタ(FET)の絶縁体層をイオン液体に置き換えることで、小さい電圧でも高密度に電荷を注入することが可能になった。
実験では、EDLTを用いC8-DNBDTに4分子当たり1電荷に相当する高密度のホールを誘起した。この結果、260Kにおいて17kΩ程度の低いシート抵抗(Rsheet)が得られたという。この値は一般的なFETに比べ1桁小さく、量子化抵抗(25.8kΩ)と比較しても十分に小さいことが分かった。C8-DNBDT薄膜のシート抵抗は、10K程度まで単調に減少し続けるなど、有機半導体結晶においても金属状態が実現できることを確認できたという。
さらに、Hall効果を測定したところ、キャリア移動度の温度依存性が二次元電子系の標準モデルと一致していることが判明。わずか1分子厚さ(4nm)の有機半導体結晶薄膜に、電荷を高密度で注入することにより、二次元ホールガス状態が形成されていることも分かった。
今回の成果は、東京大学大学院新領域創成科学研究科、同連携研究機構マテリアルイノベーション研究センター、産業技術総合研究所 産総研・東大 先端オペランド計測技術オープンイノベーションラボラトリ、物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(WPI-MANA)の共同研究グループによるものである。
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