東北大学多元物質科学研究所の研究グループは、イオン伝導性と強誘電性が共存する、新たな分子集合体構造を開発した。新規の動作原理を用いた有機メモリ素子の開発につながるとみられている。
東北大学多元物質科学研究所の原国豪博士と芥川智行教授らによる研究グループは2021年10月、イオン伝導性と強誘電性が共存する、新たな分子集合体構造を開発したと発表した。イオンチャネル構造を持つ液晶性クラウンエーテル誘導体と液晶性強誘電体を混晶にすることで実現した。新規の動作原理を用いた有機メモリ素子の開発につながるとみられている。
研究グループは、外場によって化学結合の形成と解離が可能な「分子間水素結合」に着目。これまで、外部電場の印加で生じる水素結合反転を起源とした分極反転を用いる有機強誘電体を開発してきた。強誘電体では、電場−分極(P−E)曲線にヒステリシスを示す。この性質を用いると、不揮発性強誘電体メモリの作製が可能となる。ここで重要となるのが、より小さな外部電場で、より大きな残留分極値(Pr)を持つ有機強誘電体を設計することだという。
研究グループは今回、ディスコチックヘキサゴナルカラムナー(Colh)液晶性を示す「クラウンエーテル誘導体」を新たに合成した。側鎖である4本のアルキルアミド基の分子間N-H…O=水素結合によって一次元カラム構造を形成、クラウンエーテルの一次元的な積層によるイオンチャネル構造を発生させる。これは、側鎖に3本のアルキルアミド鎖を有する「ベンゼン誘導体」と同様のColh液晶性を示すという。
6個の酸素原子からなる「18-クラウン-6-エーテル」は、分子中心に空孔が存在し、その直径はK+イオンと良く適合することが分かっている。イオンの組み合せを変化させると、18-クラウン-6-エーテルが形成するチャネル内のイオン運動について、その自由度を制御することが可能になる。その変化量は、Na+、K+、Cs+の順で減少し、空孔サイズよりも小さいNa+が最も大きいイオン変位を示すという。
この分子集合体は強誘電性を示さないため、強誘電性液晶と非強誘電性液晶を混合した。そうしたところ、Colh液晶相の形成と強誘電性の発現を確認できたという。
一般的にイオン伝導性と強誘電性は相反する性質だが、有機材料の設計自由度に着目した分子設計によって、互いに共存させることができたという。イオンサイズを変化させることで、イオンチャネル内でのイオン輸送特性を制御。さらに、イオン変位の大きさによって、不揮発性メモリで重要となる残留分極値を増加させることが可能になる。
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