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PCMの課題解決、フレキシブル基板が鍵になる可能性スタンフォード大学が発表

超格子材料とフレキシブル基板を組み合わせれば、相変化メモリPCM(Phase Change Memory)の主要な欠点の1つを解決できる可能性がある。

» 2021年10月21日 14時45分 公開
[Gary HilsonEE Times]

 超格子材料とフレキシブル基板を組み合わせれば、相変化メモリ(PCM:Phase Change Memory)の主要な欠点の1つを解決できる可能性がある。

「高いスイッチング電流」を克服

 PCMは、フレキシブルエレクトロニクス向けデータストレージの有望な候補として既に検討されているものの、その高いスイッチング電流と電力は依然としてPCMの商業化や大量生産を阻む障害となっている。だが、共同研究に取り組むスタンフォード大学の研究者らは、フレキシブル基板のPCMで1cm2当たり約0.2メガアンペアという低さのスイッチング電流密度を実証した。これは、フレキシブルまたはシリコン基板上の従来型のPCMに比べ1〜2桁低い密度である。

メモリデバイスを搭載したフレキシブル基板 出所:スタンフォ―ド大学

 米国スタンフォード大学の研究者らが最近発表した論文の中で明らかにしたところによると、超低熱伝導基板上に形成した細孔タイプのデバイス内部の超格子材料に熱を閉じ込めることで、前述したような特性を実現したという。その結果、PCMデバイスは低い抵抗ドリフトを備えたマルチレベルの性能を発揮し、新興のインメモリコンピューティングアプリケーションやデータストレージ用のフレキシブルなIoT(モノのインターネット)エレクトロニクスへの期待を示した。研究では、柔軟性のメリット以外に、硬質シリコン基板に取り付けられた従来型のPCMに関する熱工学面の知見ももたらした。

 電気工学部の教授であるEric Pop氏、博士課程の学生であるAsir Khan氏、博士研究員のAlwin Daus氏は、米国EE Timesとのブリーフィングの中で、細孔タイプのデバイスでの電流閉じ込めや熱絶縁性のフレキシブル基板で超格子材料に熱を閉じ込めることによって、どのようにスイッチング電流密度の低下が実現するのかについて概要を述べた。Pop氏は「過去にも超格子を研究したグループはいたが、扱いが非常に難しかった」と述べた。

左はピンセットでつかんだフレキシブルなメモリ基板、右は曲げた状態のメモリ基板の連続画像だ 出所:スタンフォード大学

 Khan氏は、基本的にPCMの超格子を用いてスイッチングを実証し、Daus氏は、フレキシブルエレクトロニクスでの専門知識を提供したという。研究グループは、超格子PCMとフレキシブルエレクトロニクスを組み合わせ、メモリをフレキシブル基板上で機能させることができるかどうかを検証した。

 Pop氏は、「われわれの予想以上に首尾よく機能した」と述べる。「通常、フレキシブル基板上でエレクトロニクスを構築する場合、うまくいかない傾向がある。リソグラフィの粗さに起因する製造プロセスの不備があるからだ」(同氏)。超格子を使った蒸着の取り組みは15年前から行われているが、その条件が困難なものだったという。スタンフォード大学の研究チームは蒸着条件を見つけ出し、再現が可能となった。

 Daus氏によると、過去に他の研究グループが蒸着を実証したものの、厳しい温度要件のために結果を再現することが難しかったという。同氏は、「そうした手法のキャリブレーションは容易ではない。独自のチューニングと“おもちゃ”が必要になる」と説明。Khan氏の専門知識は、そうした面で役立ったのだという。

 Khan氏は、研究チームの成功の要因について、超格子を用いた過去の研究とは異なるアプローチを取ったことだと説明した。すなわち、熱をより吸収するアーキテクチャを作り出すことに注力し、フレキシブル基板によってそのアーキテクチャを一層強化したことが成功に起因した。さらに興味深いこととして、研究チームがフレキシブル基板に取り込んだPCM技術は、シリコン基板に適用した場合に比べより良い性能を示したという。Pop氏は「フレキシブル基板そのものは、より低電力で相変化を起こせるような断熱性をもたらす」と述べた。

従来比で100倍優れたエネルギー効率

 フレキシブルエレクトロニクスに用いる、“曲げられるメモリ”の潜在性は高い注目を集めているが、エネルギー効率も同じくらい重要である。Khan氏は「われわれが生み出したPCMメモリのエネルギー効率は、従来のPCMに比べ100倍も優れている。これは2つの観点からうれしいブレークスルーだ」と述べた。フレキシブルエレクトロニクスではエネルギー効率が重視されるが、同様にフレキシブルなメモリを組み込む取り組みはほとんど行われてこなかったという。保持性や安定性、低電力性を備えたPCMは言うまでもない。Khan氏は「われわれが成し得たブレークスルーは、フレキシブルではないエレクトロニクスにも等しく適用することができる」と述べた。

 フレキシブルエレクトロニクスデバイスでは、基板に紙やプラスチック、金属箔を用いた上で、有機物や金属酸化物、あるいは非晶質(アモルファス)シリコンなど活性のある薄膜半導体材料を組み合わせる。結晶シリコンに対する優位性としては、薄さ、順応性、製造コストの低さが挙げられる。現実世界の製品という観点から最初に思い浮かびそうなのは、市場に出始めたスマートフォンの折りたためるスクリーンだが、フレキシブルメモリの他に、フレキシブルプロセッサも実現できる可能性があるという。

Armのフレキシブルプロセッサ

 Armでは、同社内のグループが現在、フレキシブルシリコンを使って、より小型な組み込み設計の1つを実装しようとしている。ArmはPragmatIC Semiconductorとともに、「Cortex-M0+」ベースのプロセッサ「PlasticArm」を発表した(参考:Natureの論文)。これは、Armの命令セット「Thumb」の簡略化されたサブセットを実行できる32ビットプロセッサである。このプロセッサは、レジスタを用いて処理中のデータを保存する。レジスタはRAMのリザーブ(予備)セクションにある。スタンフォード大学のPCMと同様、PlasticArmも小型化、低消費電力化、組み込み用に最適化されている。

 Pop氏は、スタンフォード大学のフレキシブルPCMメモリの潜在的なユースケースの1つとして、食料品の損傷に関するデータやさまざまな商品の製造データを保存するための小型のRFIDタグを上げた。

【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】

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