失礼しました。少々(大変)長い前置きでしたが、本論に入りましょう。
こちらが、本日の話題となった、『我が国のデジタル後進国日本』を決定付けた報告書、IMD「世界デジタル競争力ランキング」です。我が国は、現在(2021年)で、世界28位です。その結果の詳細は、こちらになります。
『お前の国は、28位なんだよ、28位。経済大国世界第3位といっていても、10年以内に、インドに抜かれることが確定しているし。まあ無理ないよね。英語力が……えっと、世界51位だったっけ(笑)』と言われているようで、正直カチンときました。腐っても、我が国はG7主要国であり世界第3位の経済大国です。
―― ちょっと待て! その28位っていうのは、根拠があって言っている数字なんだろうな、オイ!
と言いたくなるのが、人情というものです。
他のことはどうでもいいのですが、我が国のIT化については、私は企業のIT研究員として責任を負う側であるという自負があります。納得した説明をもらわんと、私はここを動かんぞ、という感じで、評価項目について全部調べてみたのですが……。
――調べなければよかった。
納得の28位でした ―― というか、この項目で調べ上げられたら、28位でも、『やさしく採点してもらった』と思えるほどです。『本当に痛いところを突っ込んでくるなぁ』と溜息が出てきました。
この感想を、一つ一つ書き連ねていたら、とても終わりそうにないので、以下に1フレーズでまとめてみました。
それでは、我が国を、「IMD世界デジタル競争力ランキング、世界28位」におとしめた犯人を、私(江端)視点で特定してみたいと思います。被告を、政府(省庁)、企業、私たち(政治家も含む)の3人として、これを罪状ごとに定量的に表してみました。
結論としては、全員有罪です。
「国民」については、ITに関する絶望的な無理解と、ITを理解する上で必要となる数学や英語への根本的な忌避感は否定できません。そして、「分からん」「苦手」「嫌い」という理由でITシステムから逃げ続けた不作為は非難されるべきでしょう。
「企業」は、そのアナログ的な経営体質を、自ら変革しようとせず、特に責任のある立場のある人間のITオンチは、「犯罪的なまでの無知」と断罪されても良いでしょう。我が国のほぼ全ての企業がトップダウンで動いていることは明らかであるのですから、その企業のトップが無知であるということは、許されてはならないことです(筆者のブログ)。
その中でも「政府」の罪は、突出しています。私は罪状全てにおいて「有罪」と認定しました。
政府や地方自治体の官僚が、国会議員や地方議員に対して「物申し上げること」が難しいのは理解できますが、彼らの絶望的なまでの無能を放任して、我が国のIT体制をここまで放置し続けたことは、責任放棄という言葉では全く足りず、『懈怠(けたい)』と言い切ってもいいくらいです。
省庁間のシステム連携のチンタラさ(非効率さ)を見ていると、官僚もまた、国会議員や地方議員と同程度に、ITオンチなのかもしれません。私は、彼らが、自ら勉強せずに、内容も理解せずに、ITベンダにシステムを丸投げし、さらには、住民向けの説明用の資料までITベンダに作らせていることを知っています(見てきました)。
「江端さん、あなたは、今回の28位に酷く拘(こだわ)っているけど、『世界一になる理由は何があるんでしょうか?』『2位じゃダメなんでしょうか?』」*) ―― と問われたら、私はこう答えます。
*)"蓮舫議員"でググってみてください。
ええ、ダメなんですよ。別に1位がエラいとか、目指すべき目標とか、そういう根性論とか観念論ではなく、これは、我が国特有の事情から導かれる「生存権」の話なんです ―― ぶっちゃけて言えば「社会保障(福祉)」と「国防(戦争)」です。
で、社会保証(行政サービスのIT化や高齢者介護のIT化*))については、散々お話してきたので、ここでは「国防(戦争)」に特化して、論じてみたいと思います。
*)連載「江端さんのDIY奮闘記」
そもそも、米国大統領選挙(2016年)については、SNSを使った国外からの選挙妨害については、内部告発本(例えばこちら)が出ていますし、私も、「サイバー攻撃で日本をつぶす方法」については、以前机上シミュレーションをやりました(参考/Business Journalに移行します)。
日本国は、
(1)自国でのエネルギー資源がなく輸送ルートは簡単に他国に妨害され得る
(2)近隣諸国とは原則として仲が悪い
(3)同盟国(米国)の東のはしっこの軍事拠点にされている
(4)核武装はできない(やったら、政権が倒れて、日米安保は破棄される)
(5)近隣国との国境が陸続きでないのはありがたいけど、毎日のように、他国の領空、領海侵犯、あるいはそれらの予備的行為をされ続けて、気が休まらず、イライラさせられている
という条件にあり、ぶっちゃけ、地政学的には、この状態を打破する可能性はありません(もう一度『大東亜共栄圏』を目指して戦争を始める、という方向はありますが、バカげています)
とすれば、あとは「サイバー空間」での優位性―― しかも、圧倒的な優位性 ―― に賭けるくらいしか、道がないのです。
実は、「サイバー戦争と日本国憲法第9条」という観点から考えてみると*)、実は、まだ、検討の余地がありそうなのです。
*)なお、「憲法と自衛隊の関係」「国際条約との関係」や「集団的自衛権」については、バッサリと省略して、純粋に"9条"の文言解釈のみで考えるものとします。
例えば、この辺が、まだ曖昧(あいまい)です。
(1)そもそも、サイバー攻撃は「戦争」または「武力」と認定できるか?
(2)サイバー攻撃を行う/行われる前提としての「国際紛争」とは、どのような状態か?
(3)「戦争」とした場合、相手国を認定しなければできないが、「サイバー攻撃」を仕掛ける国が「宣戦布告」をすることになるか?仮に宣戦布告をしたとして、それは国際法上の戦争開始として認められるか?
(4)攻撃先(日本)のサーバが、紛争国とまったく関係のない国のサーバ経由で攻撃を仕掛けられた場合は、我が国はどの国と交戦していることになるのか?そもそも、交戦国をどのような手段で判定すればよいのか?
(5)攻撃元のサーバに対して、逆クラック攻撃をかけることは、我が国の防衛の基本的な考え方である「専守防衛」に反することにならないか
(6)我が国がサイバー軍備を保持する、または保持していたとした場合、「陸海空軍その他の戦力」の「どれ」に当たるのか?あるいは、どれにも当たらないのか?当たらないとすれば、サイバー軍備は、憲法第9条の対象外なのか?
(7)さらに突っ込んで言えば、サイバー攻撃がいずれの戦力にも該当しないと(例えば司法等によって)判断されれば、我が国は憲法第9条に拘束されることなく、他国の社会インフラを壊滅させ得るような、徹底的なサイバー攻撃が可能となるのか?
(8)ぶっちゃけ、サイバー戦争における「交戦権」とは、どういう概念で捉えればよいのか?
など、いくらでも出てきます。
つまり、サイバー空間での戦争においては、平和憲法の枠組みの外で行動できる可能性があります。とすれば、今後、間違いなく発生する、我が国と外国とのサイバー戦争において
―― 『あの国(日本)だけには、手を出すな』と、諸外国に思わせるような、オペレーション技術(OT)を有する国民を、どれだけ大量に育成できるか
に、我が国の安全保障が賭かっていると思っているんです、私は ―― かなり本気で。
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