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MediaTek、スマートフォン向けSoC市場で首位獲得へ2021年の売上高ベースで

MediaTekが、2021年のスマートフォン向け半導体チップ市場において、トップの座を獲得する見込みだ。同社は長年、最大のライバルであるQualcommと同市場で競争を繰り広げてきた。

» 2021年12月08日 11時30分 公開
[Alan PattersonEE Times]

 MediaTekが、2021年のスマートフォン向け半導体チップ市場において、トップの座を獲得する見込みだ。同社は長年、最大のライバルであるQualcommと同市場で競争を繰り広げてきた。

 MediaTekのCEO(最高経営責任者)であるRick Tsai氏は、最近台湾で行われた投資家向けカンファレンスにおいて、「MediaTekは今や、世界トップのスマートフォン向けSoC(System on Chip)メーカーとしての地位を獲得するに至った。今後も世界の全地域において、市場シェアを拡大し続けていきたい」と述べている。

 MediaTekの売上高は、これまで数十年にわたり、中国の顧客企業が頼みの綱だったが、こうした状況から抜け出そうとしているようだ。2021年の北米市場における同社のAndroidスマートフォンのシェアは、35%を上回る見込みだという。

 MediaTekは、Apple以外の全てのスマートフォンメーカーに半導体チップを供給してきたが、現在では、ハイエンドフラグシップ機種向けに、「Dimensity」シリーズを提供している。MediaTekが5G(第5世代移動通信)市場への参入を積極的に進めている背景には、数世代前まではスマートフォン市場において「ファストフォロワー(迅速な追随者)」であることに満足していたが、そこからの転換を図りたいという考えがあるようだ。

 2021年第3四半期におけるMediaTekの売上高全体のうち、スマートフォン向けが占める割合は56%に達する。前年比72%増というこの急激な成長は、5Gへの移行と市場シェア拡大によってけん引されている。

 Tsai氏は、「MediaTekには、独自開発のアーキテクチャや、低消費電力設計の専門技術、TSMCの4nmプロセスの適用などがあるため、5G市場で成長拡大を実現できると確信している」と述べる。

 MediaTekは、「5G対応スマホの普及率は、2021年に30%台、2022年には50%を超える見込みであることから、5G市場への参入は今が適しているといえる。当社のサブ6GHz帯およびミリ波ソリューションは、競争上の優位性を確保することができるだろう」と主張する。

半導体の供給難

 Appleと同様に、MediaTekを含むTSMCの顧客企業トップ10社は現在、半導体不足の問題に耐えているところだ。しかし、ビジネス自体は活気づいている。Tsai氏は、「全ての企業が必要な生産能力を確保できるようになるのは、1年後か、もう少し先になるだろう。当社としては、2023年ごろではないかとみている」と述べる。

 供給難により、価格の値上げも始まっている。

 MediaTekのCFO(最高財務責任者)を務めるDavid Ku氏は、「われわれは、2021年第4四半期後半から新しい価格設定を導入する予定だ。コスト増大の要因は、ファウンドリーやバックエンドプロセス、材料など幅広い。業界のどの企業も、同じような状況に直面しているのではないだろうか」と述べた。

 その一方でMediaTekとしては、供給不足に対応しながら、2022年には堅調な成長を遂げ、健全な利益を生み出せるとみているようだ。Tsai氏は、「供給の観点から見ると、必ずしも緩和されるとは言えないが、現在、一部の製品で供給の偏りが生じているようだ。その一例がWi-Fiではないだろうか」と指摘する。

 実際に、同社はこれまで、Wi-Fiチップの需要に対応できずにいる。

 MediaTekのビジネス予測については、今後も見通しは明るいが、一部のアナリストからは、需要低迷に対する懸念の声が上がっている。米国の銀行持株会社であるJPMorgan Chaseでマネージングディレクタを務めるGokul Hariharan氏は、「最近中国では、需要の低迷について懸念が高まっている。特に、技術製品やスマートフォンをはじめとする全体的な消費が懸念されている」と述べる。

 Tsai氏は、中国のスマートフォン売上高が伸び悩んでいるという点について同意し、「中国の5Gスマホの普及率は、約80%と非常に高い」と付け加えた。

 Tsai氏は、全体的な需要については引き続き楽観的な見方をしているようだ。「われわれは、中国以外の5G需要を注視しているところだ。例えば、インドなどの新興市場は、堅調な成長が見込まれるため、当社にとって最適な市場だといえる」(同氏)

“友を装う敵(フレネミー/Frenemy)”

 MediaTekは現在も、“友にも敵にもなり得る企業”との競争に直面している。

 一部のアナリストからは、「MediaTekは、例えばGoogleや中国のOppoのように、自社に半導体設計部門を持つ顧客企業との間で取引を失う可能性がある」と指摘する声も出ている。Oppoは、世界第3位の市場シェアを保有するスマートフォンメーカーだ。

 英国の株式調査会社であるArete Researchのシニアアナリストを務めるBrett Simpson氏は、「Oppoはつい最近、かなり大規模な半導体チームを設立したばかりで、その中にはMediaTekの元社員も含まれているという。またGoogleは、新型スマートフォン『Google Pixel 6』に、独自開発のアプリケーションプロセッサを搭載している」と指摘する。

 Tsai氏は、「われわれは、このような企業の多くと連携することで自社のIP(Intellectual Property)や設計技術を提供しており、それが当社にとってもう一つのビジネスチャンスにもなっている。当社は実際に、このような種類のビジネスに積極的に関与しているところだ」と述べた。

 「MediaTekは、5G技術を新しいアプリケーションへ展開することも熱心に進めている。5Gモデム技術は希少なアセットの一つであり、その希少性は今後さらに高まっていくだろう。これまでモデムは、そのほとんどがスマホや高速通信向けだったが、5Gは、他にも低レイテンシや多接続など、さまざまな特長がある。これらの特長を生かしたアプリケーションは、まだ未開発の状態にある。われわれは、モデムIPをこうしたさまざまな領域へと拡張することで、ビジネス機会をつかんでいく考えだ」(Tsai氏)

 一方でMediaTekは、宅内通信機器(CPE)の大手メーカーとも協業体制を構築しているといい、Tsai氏は、「われわれの試みはまだ始まったばかりだ」と語った。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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