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「企業文化」になじめるか、TSMCアリゾナ工場の課題全く違う、ワークライフバランス(2/2 ページ)

» 2022年01月11日 11時30分 公開
[Alan PattersonEE Times]
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立場の逆転

 米国政府は、自国の半導体製造の復活に向けて、大手ファウンドリーであるTSMCやSamsung Electronicsと密接に連携している。現在生じている文化的衝突は、米国が開拓した半導体製造分野の位置付けが劇的に変化していることを反映している。今や役割が逆転したのだ。

 米国は、国内の半導体生産に向けた支援策として、520億米ドルを投じる法案が提案された。これは、自動車業界をはじめ、半導体に依存するデジタル製品メーカーを1年以上にわたり苦しめているチップ不足に対応するための法案でもある。こうした市場環境は、グローバルなサプライチェーンの脆弱性をも露呈した。

 そのため、政策担当者はTSMCのような大手半導体ファウンドリーを誘致している。これまでに、TSMCの米国人エンジニアのうち400人以上がトレーニングのために台湾に渡ったと、同社は米国EE Timesにコメントを寄せている。アリゾナ工場は2024年の生産開始を目指していて、米国で最も先進的な半導体工場となる。

 台湾の米国人研修生は、5nmプロセス技術をアリゾナに“持ち帰る”ことになる。研修生にとっては、工場が稼働する今が最も忙しい時期であると、TSMCのGao氏は述べる。

 米国人社員に対する研修では、OJT(On the Job Training)の他、TSMCの文化やコアバリュー、企業ポリシーを学ぶ機会もあるという。

 Gao氏は、従業員は残業代を受け取る資格があり、補償休暇を取得することも可能だと説明する。

 「われわれは、従業員から搾取しているわけではない。必要以上に長くオフィスにいる従業員を見かけたら、マネジャーが確認する。当社は、エンジニアがシフト時間内に勤務を終えることを望んでいる」(Gao氏)

 匿名の主席エンジニアによると、職種によって必要な条件が異なるため、勤務時間はさまざまだという。「装置エンジニアは、朝8時に仕事を始め、夜9時ごろに帰るかもしれないが、これは普通だろうか。こうした日が週に2〜3日ある。生産ラインでは、装置のメンテナンスが不可欠だからだ」(同エンジニア)

 「プロセスエンジニアであれば、勤務時間はもう少し安定しているはずだ。朝8時半に出社して、夜7時半前には退社できるかもしれない。急ぎの対応があれば、もっと夜遅くまで残業することもある」(同氏)

 地震や停電がない限り、従業員が通常勤務を終えた後に工場に戻る必要はないという。小さな問題であれば、電話で解決できることが多い。深夜になると、電話がかかってくることは非常にまれだという。

 なお、台湾の労働基準法の規定では、1週間の総労働時間は48時間を超えてはならない。

工場の“歩兵”

 TSMCは、よく統制のとれた軍隊に例えられる。同社は、生産ライン上の装置1台を監視するために博士号を取得した人物を使っているともされる。

 台湾政府が運営するシンクタンク「The Prospect Foundation」のプレジデントを務めるLai I-Chung氏は、「1台の装置を担当するために博士号を取得する必要は、基本的にはない」と語る。「ただ、そうした高い専門教育を受けたエンジニアがプロセスを管理しているが故に、現場で発生した問題にも速やかに対応できるのは確かだ」(同氏)。TSMCの競争力は、こうした背景があって生み出されているのである。

 「博士号を持つ従業員を“歩兵”として使っているが、(他の企業であれば)実は“大佐”になれる人物も多い。ただし、そういう文化は、米国では通用しないだろう」(同氏)

 TSMCが従業員の管理能力を向上させ、エンジニアが最終的に8時間シフトで働けるようになることが期待されている。2020年のインタビューでI-Chung氏は、「TSMCはその準備ができていない」と語っている。

 TSMCは、装置の管理に博士号を要求しているわけではないが、Gao氏は「半導体製造装置は非常に精密で高価で、複雑だ」と指摘する。「フェラーリよりも高価で複雑な装置が多いかもしれない。装置を管理するのは簡単な仕事ではない」(Gao氏)

 TSMCは、台湾から米国に従業員を転勤させることはしないし、アリゾナ工場を運営するために米国の大学から台湾人の卒業生を採用する予定もないと述べている。

 アリゾナ工場のCEOは、1997年からTSMCに勤務しているRick Cassidy氏が務める。Gao氏によれば、TSMCは最近、アリゾナ工場の運営を統括するシニアバイスプレジデントとして、もう1人米国人を採用したという。

 「台湾からアリゾナへ1000人の従業員を移動させてもうまくいかない」とGao氏は述べる。「工場の従業員は、現地の文化に溶け込まなければならない」(Gao氏)

 だがこの戦略にはいくつかの欠点もある。

 アリゾナで働く社員は新卒が中心で、「社会人経験がほぼゼロ」だとGao氏は話す。「アジアに行ったこともない人たちがほとんどだ。そのため、異文化コミュニケーションと協力体制が非常に重要になるのだ」

 アリゾナ工場の新設で、TSMCはさらなる難題に直面する。

 主席エンジニアによれば、最大の課題は、テスト&アセンブリ企業や材料サプライヤーなどのサプライチェーン全体を米国に移転することだという。「台湾には、既に多くのサプライヤーが存在する。これらを全て米国に移転するのか、それとも現地で新たに探せばいいのか、それが大きな課題だ」(同エンジニア)

 もう一つはコストだ。米国では、コストが台湾の2倍になる可能性があるという。

【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】

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