東北大学は、東京大学らと共同で、磁気回転効果を利用したナノモーターを提案し、この駆動メカニズムに関する量子論を構築した。強磁性体電極と電子のスピンを用いた機構は、ナノスケールの微小機械を回転駆動させる有力な方法として注目される。
東北大学は2022年1月、明治大学や仙台高等専門学校、東京大学、中国科学院大学らと共同で、磁気回転効果を利用したナノモーターを提案し、この駆動メカニズムに関する量子論を構築したと発表した。強磁性体電極と電子のスピンを用いた機構は、ナノスケールの微小機械を回転駆動させる有力な方法として注目される。
磁気回転効果とは、磁石の磁気と回転運動が相互に変換する現象。磁石の磁気量を変化させると、その変化分に応じて回転運動が生じる。逆に、磁石を回転させると磁石の磁気量が変化する。この時、電子が持つ「スピン」と呼ばれる角運動量が、磁気の源になることが分かっている。
研究グループは今回、電子スピンを駆動力とするナノモーターを実現するため、電流によって回転運動への変換を連続的に行うことができる構造を提案した。それは、カーボンナノチューブと強磁性金属を組み合わせた構造である。
具体的には、回転子を磁化方向が異なる2つの強磁性電極で挟み込んだ。電極間に電圧を加えると、一方の電極から偏極した電子スピンがナノ回転子(ナノチューブ)に注入される。注入された電子は、回転子内における磁気回転相互作用によりスピンの向きを反転させ、回転子に角運動量を受け渡す。スピンの向きが反転した電子は、その偏極と同じ方向に偏極したもう一方の電極へと抜ける。これを繰り返すことで、回転子は角運動量を獲得し、回転運動が誘起されることになる。
研究グループは、電子スピンから回転子へ角運動量が移行するという量子論を展開し、回転駆動のシナリオを確認した。これにより、回転子は、回転軸がぶれない眠りコマ回転運動の他に、歳差運動を行っていることが分かった。しかも、歳差運動から眠りコマ回転運動への緩和過程が存在し、これが安定した回転状態を実現していることも明らかとなった。
今回の研究成果は、東北大学大学院理学研究科の泉田渉助教と、明治大学理工学部の奥山倫助教、仙台高等専門学校総合工学科の佐藤健太郎准教授、東京大学物性研究所の加藤岳生准教授、中国科学院大学カブリ理論科学研究所の松尾衛准教授らによるものである。
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