広島大学と九州大学、筑波大学の研究グループは、新たな熱電変換材料として注目を集める硫化銅鉱物「テトラへドライト」において、大振幅原子振動(ラットリング)を圧力で制御することに成功した。
広島大学と九州大学、筑波大学の研究グループは2020年10月、新たな熱電変換材料として注目を集める硫化銅鉱物「テトラへドライト(Cu12-xTrxSb4S13)」において、大振幅原子振動(ラットリング)を圧力で制御することに成功したと発表した。
今回の成果は、広島大学自然科学研究支援開発センターの梅尾和則准教授と同大学大学院先進理工系科学研究科の高畠敏郎特任教授、九州大学大学院総合理工学研究院の末國晃一郎准教授、筑波大学数理物質系エネルギー物質科学研究センターの西堀英治教授らによるものである。
熱電発電に用いる材料には、大きな熱電能(ゼーベック係数)と高い電気電伝導率、低い格子熱伝導率が求められる。末國氏らのグループが、熱電材料の候補として2013年に発見したCu12-xTrxSb4S13の化合物は、3つのS(硫黄)原子が作るS3三角形中のCu(銅)原子が、面垂直方向に平面ラットリングをしている。これによって、熱伝導率はガラス並みに抑えられている。
ただ、ラットリングの起源として2つのモデルが提案されているという。「S3三角形のS原子がCu原子に及ぼす化学的圧力」と「Cu原子に隣接するSb(アンチモン)原子が持つ孤立電子(ローンペア)による静電気力」である。研究グループは、これらの提案を検証するため、圧力下におけるラットリングの振る舞いを調べた。
実験では、密度が高いCu10Zn2Sb4S13焼結体を3He冷凍機で冷却し、3万気圧までの比熱を測定した。また、大型放射光施設「SPring-8」のビームラインBL02B1で、ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧X線回折を行い、1.9万気圧まで結晶構造の圧力変化も調べた。
この結果、Cu10Zn2Sb4S13の場合、比熱Cを温度の3乗で割ったC/T3の山は、0.7万気圧(0.7GPa)まで低温側にシフトした。圧力下の結晶構造解析の結果も踏まえて研究グループは、加圧によってS3三角形の面積が低下し、S原子からの化学的圧力が増すことにより、Cu原子がラットリングをしやすくなると判断した。
また、Cu10Zn2Sb4S13は、圧力が増すとC/T3の高さが急激に低下し、わずか2万気圧で常圧の1/4以下に減少することが分かった。これは、ラットリングの消失を示したもので、高圧下でCu原子がS3三角形の面外に押し出されたことによるものだという。
参考に、カゴ状化合物であるクラスレート「Ba8Ga16Sn30」も、異なる複数の圧力下でC/T3の温度変化を測定した。Ba8Ga16Sn30は、C/T3のブロードの山が圧力増加とともに単調に高温側へ移動した。これは、加圧することでカゴの体積が減少し、ゲスト原子(Ba)の振動エネルギーが増加したためである。
今回の実験では、Cu10Zn2Sb4S13におけるCu原子のラットリングを、圧力によって制御することに成功。その圧力効果から、ラットリング状態を決めるパラメーターは、S3三角形の化学的圧力であることを実証した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.