東京大学は、アクリル板と水だけを用い、ガラス表面とシリコン表面を原子レベルで平たん化できる「表面研磨技術」を開発した。微粒子や薬液を一切用いない、低コストで極めてクリーンな研磨法である。
東京大学大学院工学系研究科の三村秀和准教授と郭建麗大学院生らによるグループは2022年3月、アクリル板と水だけを用い、ガラス表面とシリコン表面を原子レベルで平たん化できる「表面研磨技術」を開発したと発表した。微粒子や薬液を一切用いない、低コストで極めてクリーンな研磨法である。
アクリルの微粒子を用いた加工技術は、東京大学大学院工学系研究科の松澤雄介大学院生(研究当時は博士課程2年、夏目光学勤務)が、2017年に発見した。その後の研究により、この加工には水中におけるアクリルの加水分解反応が関与していることを、郭氏が提唱。水中ではアクリルの表面が、研磨で一般的に用いられているSiO2やCeO2などの微粒子表面と同様な性質になることが分かってきた。しかも、ガラスを加工できる汎用的な樹脂材料がアクリルのみであることも判明した。
研究グループは今回、新たに開発したWAPOP(WAter Polishing with Organic Polymer plate)と呼ぶ研磨手法を用い、アクリル板と水だけでガラスの表面を研磨した。実験では、アクリル製の円形定盤を作製し、市販の研磨装置に取り付けた。アクリル板を下側に、加工物を上側にそれぞれ配置し、アクリルと加工表面を接触させ、水道水をかけながら両方を回転させた。
ガラスの加工前と加工後の表面を原子間力顕微鏡で評価すると、両表面で表面の平滑性が改善されていることを確認できた。白色干渉顕微鏡を用いた評価では、大幅に平たん性が改善されていることが分かった。特にガラス表面は、安定的に原子レベルで平たんであった。同様に、シリコン基板の研磨に適用しても、原子レベルで平たんな表面が得られたという。その平たん度は表面粗さの指標で0.1nm(RMS)以下である。また、加工に用いたアクリル板も自動的に平たん化され、半永久的に利用できる可能性があるという。
WAPOPでは、アクリル板と水道水があれば表面研磨を行うことができ、ランニングコストは水道代だけで済む。薬液などを用いないため、加工後の表面洗浄もいらない。ただ、現状では研磨速度が遅く、当面は研究開発用途で活用していくという。今後は研磨速度の改善に向けて、アクリル定盤の工夫などが必要になるとみている。
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