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グラフェン原子層にCa原子が入り込み超伝導が発現超伝導発現のメカニズムも解明

東京工業大学は東京大学と共同で、SiC結晶基板の表面上に作製した単一原子層グラフェンの下に、Ca原子が入り込むことによって超伝導が発現することを発見、そのメカニズムも解明した。

» 2022年03月04日 10時30分 公開
[馬本隆綱EE Times Japan]

「ファン・ホーブ特異点」と呼ばれる特異な電子状態が関与か

 東京工業大学の研究グループは2022年3月、東京大学の研究グループと共同で、SiC(炭化ケイ素)結晶基板の表面上に作製した単一原子層グラフェンの下に、Ca(カルシウム)原子が入り込むことによって超伝導が発現することを発見、そのメカニズムも解明したと発表した。「ファン・ホーブ特異点」と呼ばれる特異な電子状態が、超伝導発現に関与している可能性があるという。

 グラフェンは、原子1個分の厚みしかない2次元シート状の物質。グラフェンを流れる電子は、極めて高速に移動する特性があり、次世代高速デバイスへの応用研究が進んでいる。研究グループはこれまで、グラフェンに超伝導を誘起する手段を開発してきた。今回はグラフェンの特性を生かしつつ、超伝導を引き起こす仕組みを解明することに取り組んだ。

 これまでの研究により、グラフェン層間に金属原子が挿入された構造を得るためには、グラフェンが最低でも2層は必要とみられていた。今回の研究では、1原子層のグラフェンに対し、Ca原子を蒸着して加熱すれば超伝導が発現することを初めて発見した。

 SiC基板上に作製した1層グラフェンの場合、重要な役割を果たすのが原子構造の変化が起こる「グラフェンと基板の界面」だという。1層グラフェンが最終的に2層グラフェンに変わり、2層グラフェンの層間にCa原子が挿入されることで超伝導が発現するという。さらに、グラフェンとSiC基板との界面からも電子がグラフェンへ供給されることが判明した。

上図はCa原子挿入の過程における原子構造変化の模式図、下図は超伝導Ca挿入2層グラフェンの2次元抵抗率(シート抵抗)の各面直磁場下における温度依存性および、各温度における面直磁場依存性[クリックで拡大] 出所:東京工業大学

 一方、「電気伝導度が上昇してある値に達すると、逆に超伝導転移温度が低下する」という、特異な振る舞いも確認された。研究グループはこの振る舞いが、「ファン・ホーブ特異点という特殊な電子構造が関わっている可能性がある」とみている。この電子状態は、「非従来型超伝導」を引き起こす可能性があることも指摘している。

常伝導における電気伝導度と超伝導転移温度との関係 出所:東京工業大学

 今回の研究成果は、東京工業大学理学院物理学系の一ノ倉聖助教や平原徹准教授らの研究グループと、東京大学理学系研究科物理学専攻の遠山晴子大学院生や秋山了太助教、遠藤由大大学院生(当時)、長谷川修司教授、東京大学物性研究所の飯盛拓嗣技術職員および、小森文夫教授(当時)らによるものである。

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